赤ワインは本当に頭痛を引き起こしやすいのか?

赤ワインと頭痛

アルコールは、社交で飲まれるレクリエーションドラッグ。
要するに法的に認められ、なおかつ多くの人が服用するドラッグで、当然ながら悪影響もあります。
その悪影響の中でも代表的なものの一つとして、いわゆる「悪酔い」が知られています。

酔いの程度は人それぞれ、そしてそれぞれのお酒によって出方は異なり、なかでも興味深いのは「赤ワインは頭痛を引き起こしやすい」という説。
これは確かによく聞かれるもので、筆者の知人にも同様の症状を訴える人がいます。

本記事ではこの説が正しいのかどうなのか、また考えられる要因はあるのか等を、「酒の科学|白揚社 著アダム・ロジャース」を参考に解説していきます。
それでは見ていきましょう。

アルコールと酔いの基本情報

まず本題に入る前に、アルコールと酔いに関する基本情報についておさらいしましょう。
(すでにご存知の方は飛ばしてお読みください)

アルコール(エタノール)は、胃や腸から吸収されると肝臓に送り込まれ分解が始まります。
そこでまず、アルコール脱水素酵素(ADH)の働きによってアセトアルデヒドに変換。このアセトアルデヒドは毒性のある厄介者で、顔面紅潮や吐き気、そして頭痛等のいわゆる「悪酔い」を引き起こすことはよく知られた話。
ただしこの厄介者は、肝臓にてアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)という酵素の働きによって無害の酢酸に分解され、最後は炭酸ガスと水になり体外に排出されます。
つまり、本来なら毒性が働く前に分解されるということ。
しかし、この酵素(ALDH)の分解力には個人差があり、主に活性型のALDHと低活性型そして非活性型ALDHに3タイプに分かれ、後二者はアセトアルデヒドの分解力またはスピードが遅いとされ、アセトアルデヒドの毒性が働きやすくなります。
この低活性型・非活性型の人こそがいわゆる「お酒に弱い人」で、アジア人の約半数はこれにあたるとされています。

だるそうな犬

低活性型はお酒が弱く、非活性型はそもそも飲めない。

赤ワインは頭痛を引き起こしやすいのか?

少々前置きが長くなりましたが、いよいよ本題。
赤ワインは本当に頭痛を引き起こしやすいのでしょうか?

本記事の参考文献である「酒の科学」では、お酒にまつわる、酵母や発酵・蒸留、そして酔いや二日酔いに対して科学的視点からまとめられています。
当書籍によれば、赤ワインと頭痛の関連性を明確に示したデータはないとのこと。
ただし、偏頭痛持ちの人の1/3は赤ワインを飲むことによって頭痛を訴えているとされています。
偏頭痛持ちという条件付きで、さらに1/3というなんとも中途半端なデータではありますが、赤ワインで「悪酔いする」ではなく、赤ワインで「頭痛が起きる」という人が一定数いるのは興味深いところ。

では次に、赤ワインによって頭痛が引き起こされていると前提して、その要因は何なのか?
これについて考えられる要因を紐どいていきましょう。

頭痛の原因はコンジナー?

赤ワインが頭痛をもたらすのは前述したアセトアルデヒドによるものだけでなく、コンジナーによってもたらされている可能性もあります。

コンジナーとはアルコールと水以外の物質・成分、要するに不純物のこと。
このコンジナーは量の多さや種類によって、悪酔いを誘発する可能性があると考えられています。
一般的に赤ワインは、その色や製法からも推測できるようにコンジナーの量が多いとされています。
(ただしコンジナーは香味・風味の役割も果たしているため一概に悪いものとは言えない)

赤ワインが注がれたグラス

赤ワインはブドウの皮や種ごと使用するなど、独自の製法からコンジナーが多いとされている。

次に、赤ワインに含まれるコンジナーのうち、頭痛の要因と考えられるコンジナーについて4つ挙げていきます。
それぞれ見ていきましょう。

1. ヒスタミン

ヒスタミンとは、アレルギー反応を引き起こす物質で、頭痛もまたアレルギー反応の一つであるため、これは要因の一つかもしれません。
ヒスタミンは、赤ワインはもちろん、白ワイン、日本酒、ビールなど主に醸造酒に含まれ、なかでも赤ワインはこれら酒類の中で一番多くヒスタミンを含むという研究があるとのこと。しかし一方、でどのお酒も大差がないという研究もあり、確かなことは言えないらしいです。

2. チラミン

チラミンは、赤ワイン独自の製法である「マロラクティック発酵(リンゴ酸を乳酸に変える製法)」によって生成されるもの。
このチラミンは普通なら分解されるので悪影響はないのですが、なかにはうまく分解できない人や過剰摂取で悪影響を及ぼすことがあります。
その悪影響は、アセトアルデヒドと同じく顔面紅潮や吐き気、そして頭痛などが挙げられ、特に偏頭痛持ちの人には頭痛が強く現れるとされています。

しかし、研究によれば、赤ワインには多量のチラミンは含まれていないという結果と、多量に含むとする結果が出ており、こちらも確かなことは言えない状況です。

3. 亜硫酸塩

亜硫酸塩は要するにワインに含まれる酸化防止剤のことで、「これこそ頭痛の要因」だと考える人が多い傾向にあります。(これは本当によく聞く)
確かに亜硫酸塩により、時に頭痛や喘息反応が出るとされていますが、そもそもワインに使用される亜硫酸塩は、基準値以下でありこのような悪影響が出ることは考えにくいとされています。
しかもそもそも亜硫酸塩の含有量は、実際のところ白ワインより赤ワインの方が少ないとのこと。

つまり、亜硫酸塩説は可能性が低いと言えるでしょう。

4. ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)

最後にご紹介するのはヒドロキシトリプタミンについて。
これは一般的にセロトニンとして知られており、神経伝達物質、要するに気分の調節などを行うものとされています。
例えばうつ病の薬として知られるプロザックでは、セロトニンの再取り込みを阻害することで脳内のセロトニンの効果を増強し、気分を良くさせます。これと同様に、赤ワインもセロトニンの再取り込みを阻害するとされています。
しかし厄介なことに、赤ワインはセロトニンが受容体に結合することすら阻害してしまいます。
逆のケースとして、偏頭痛の薬として有名なトリプタンが受容体への結合を促している点と考慮すると、セロトニンが頭痛を起こす要因である可能性は低くないと言えます。(実際にセロトニンは偏頭痛の要因の一つとも言われている)

ただし、これについてもはっきりと言える研究データはないようです。

まとめ

ここまで述べたとおり、赤ワインが頭痛を引き起こす要因はいくつかあるのですが、どれも確かなことが言えるものではないとされています。(ただし亜硫酸塩を除く3つのコンジナーの相関性は低くない)
ただ、分かっているのは偏頭痛持ちの人の1/3の人が、赤ワインを飲むと頭痛が起きると訴えているということのみ。
結論を言うなら「“一定条件においては”赤ワインは頭痛引き起こしやすい」といったところでしょう。

なんとも腑に落ちない内容かもしれませんが、そもそも「アルコールと酔いまたは二日酔い」に関する研究は、他の医学や例えば薬物などと比べ社会的な優先度が低いためかあまり研究が進んでおらず(アルコール”依存”に対する研究は多い)、そのため分からないことが多いのだそう。
分かっているのは、お酒が違い、飲む人、飲むとき(環境や体調)が異なれば、その影響も変わってくるこということ。

結局のところ、お酒である以上嗜好品であり、そもそも飲まなければ悪影響はありません。
ただ、全く飲まないというのも寂しい話ですし、自分にあった飲み方で、なおかつここでもやはり「適量」が大切ということなのかもしれません。

それではこの辺で。

【参考文献】
酒の科学|白揚社 著アダム・ロジャース
アルコールの吸収と分解|e-ヘルスネット[厚生労働省]

著者:小針 真悟

[LiquorPage運営責任者] お酒の現場を7年経験したのちに独立。お酒の魅力を多くの人に知ってもらうべく、2016年11月に「LiquorPage」の運営を開始。 洋酒から和酒まで幅広い知見をベースに、様々な酒類専門メディアの執筆・編集のほか、酒類イベントの企画運営やWEB制作、プロモーション業にも携わる。写真撮影も行うなど、お酒を通じた様々な制作業を一人でこなす。(ただの酒好き)

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