世界的にクラフトジンが大きなムーブメントとなっている昨今。
日本の素材を活かし、味わいにもその特徴を持たせた国産クラフトジンも数多く登場するようになり、大きな盛り上がりを見せています。
その中でもサントリーが手がけるジャパニーズクラフトジン「ROKU」は、2017年7月の発売以降、その独自のこだわりも相まって国内外で人気を集めているブランドの一つです。
今回は、そんなROKUが造られるサントリースピリッツ社の大阪工場を取材。開発に携わった鳥井和之さんにインタビューを行い、その誕生ストーリーや独自のこだわりなどを語っていただきました。
海外のジンにも負けない、バーに並べてもらえる国産ジンを造りたい
– それではまず、簡単に自己紹介をお願いしても良いですか?
鳥井さん(以下、敬称略):
商品開発研究部の技術顧問として、普段は大阪工場でスピリッツ・リキュールの開発や、技術継承を行っています。
1980年に入社し、過去には山崎蒸溜所でウイスキーの製造に携わったり、研究所で洋酒の研究を行ったり、焼酎の開発や生産に携わった経験もあります。
– 鳥井さんがいらっしゃる大阪工場はどのような拠点なのですか?
1919年創業のサントリーでは、一番歴史が長い工場でして、ROKUのほか、最近だとウォッカの「白」や、それにリキュールの「奏」などスピリッツ・リキュール商品全般を製造しています。
お酒を造る時は、原料の酒から造っていかないと全く新しいものはできないとの考えから、ここではそれらの開発も行っています。
– 製造に関して、何かこだわりや大事にしていることなどあるのでしょうか?
鳥井:
美味しいことはもちろんですが、できるだけ素材の味が「リアル」で、フレッシュ、ナチュラルなものを造ることにこだわっていますね。
ここでは桜や梅、桃や柚子など四季折々の素材を用いて原料酒から製造を行っていますが、例えば、ROKUにも使われる桜の場合、桜は咲いた直後の方が香りが良いので、開花時期を見計らって手づみ収穫し、直ちに漬け込みます。
花だけでなく葉も使うのですが、違った条件で別々に漬け込み、葉はその後蒸溜しています。
他の素材に関しても、下処理や漬け込み時間をどうするですとか、蒸溜は減圧なのか常圧なのかですとか、そうした条件を変えながら原酒を造り分け、それらをブレンドすることでリアルな風味に近づけています。
– それでは、なぜいつ頃からROKUを造るようになったのですか?
鳥井:
サントリーは1936年にはジンを手がけてまして、実は1981年に「プロフェッショナル」という当時でいえば高価格帯のジンをリリースしていました。
しかし、高価格帯のジンとしては時期が早すぎたことなどから10年後には終売となりました。
私自身はこのプロジェクトには関わっておらず、造ってる人の後ろ姿を見ていただけなのですが、洋酒の研究を行っていたこともあり「いずれこういうジンを出したいな」と思い描くようになりました。
現在の役職になってからは、難易度の高い開発案件も手掛けられるようになり「海外のジンにも負けない、バーに並べてもらえる国産ジンを造りたい」と思ったのですが、(マーケットが小さい)日本市場だけではどうしても優先順位が上がりませんでした。
そんな中、2014年に転機となる出来事が起きました。
– ビームサントリー社の誕生ですか?
鳥井:
そうです。ビーム社(米国の世界的なスピリッツメーカー)と一緒になったことで、世界の市場にも目を向けることが可能になりました。
そうして国産ジンの優先順位が上がり、2015年にROKUの開発プロジェクトが始まったんです。
ただ、実はその前から、和のボタニカルを使った、例えばROKUにも使われる柚子のスピリッツなどは、当時はまだ使い道がないながらも開発を始めていました。
そういった意味では、今まで蓄積されてきた技術ノウハウがROKUにつながりました。
ザ・ジャパニーズクラフトとは「和食」のようなもの
– それで2017年7月にROKUがリリースされたわけですね。そもそもどのようなジンを目指したのですか?
鳥井:
コンセプトは「ザ・ジャパニーズクラフト」です。
ジャパニーズクラフトに定義はありませんが、私たちとしては「和食」のようなものだと捉えています。
精進料理のように限られた素材で技術を磨いてきた伝統だったり、素材の良さを見極めて丁寧に造ったものが和食だと思っているのですが、例を挙げると「炊き合わせ」という料理。
これは一つのお椀で出てくるのですが、ごった煮のように一つの鍋で造ってる訳ではない。硬いものはしっかり炊くし、柔らかいものは早く、といったように素材ごとに調理して、最後に一つのお椀に仕上げています。
素材を分けて調理して、最後に合わせることで自分の造りたいものを造るという細やかさは、日本の一つの考え方なのかなと思っています。