【ラムの基礎知識】アグリコール、トラディショナル、ハイテストモラセスについて簡単解説

【ラムの基礎知識】アグリコール、トラディショナル、ハイテストモラセスについて簡単解説

カリブ海周辺を中心に、世界各地で造られるお酒・ラム。一口にラムといっても、様々なタイプが存在し、それぞれ特徴や味わいが異なります。

今回ご紹介するのは、製法の違いによって分類されるラムの3タイプ。
サトウキビ由来の素材を原料とするラムですが、その製法によって「トラディショナル」、「アグリコール」、「ハイテストモラセス」の3つにタイプ分けされています。
今回は、これら3つのラムのタイプについて、それぞれの違いと特徴を簡単解説。ラムの基礎的な知識であり、それぞれ味や価格にも違いが生まれることから、銘柄を選ぶ際の知識としても覚えておくと良いでしょう。

ラムのタイプ①:トラディショナル

サトウキビから砂糖を造る際にできる“糖蜜(英名:モラセス)”を使用して造るラムの製法が「トラディショナル」です。
サトウキビの搾り汁(サトウキビジュース)を煮詰めていくと、一部が結晶化していきます。それを分離して取り出したものが砂糖になります。
一方で結晶化しなかった部分、つまり砂糖にならなかった部分は黒いシロップ状になっているのですが、これを“糖蜜”と呼びます。
砂糖の副産物ではあるものの、糖度が40〜50%程度あるとされており、お酒の原料として活用が可能です。
この糖蜜を発酵・蒸溜させて造る方法こそが「トラディショナル」製法です。
16世紀頃にラムが誕生した当時から続く手法であることから、3つのタイプの中では最も歴史が長く、だからこそ「トラディショナル(伝統的)」という名称なのでしょう。

モラセス

モラセスは黒いシロップ状になっている

一見すると複雑な製法にも感じられるかもしれませんが、現在でもラムの最も一般的な製法であり、世界のラムの9割以上がこのタイプだとされています。
糖蜜は保存性が高く、風味も保てるため、通年でラムを造ることができるなど、原料としての利便性に長けています。
時期を問わずラムを造ることができることから、「バカルディ」や「ハバナクラブ」といったいった大きなブランドでも採用されているのです。

「トラディショナル」タイプの主なラム

バカルディ ラム (プエルト・リコ)
ハバナクラブ (キューバ)
アプルトン (ジャマイカ)
マイヤーズ (ジャマイカ)

ラムのタイプ②:アグリコール

糖蜜ではなく、サトウキビの搾り汁(サトウキビジュース)をそのまま使用し、発酵・蒸溜させるラムの製法を「アグリコール」と呼びます。
砂糖を造る過程で生まれる糖蜜を使用する「トラディショナル」とは異なり、「アグリコール」はそもそも砂糖は関係ありません。ラムを造るためだけにサトウキビが使われるのです。
サトウキビ100%のジュースは、搾った瞬間から劣化が始まるため保存ができません。
そのため「アグリコール」タイプのラムは通年で造ることができず、製造できるのはサトウキビの収穫時期である半年間のみ。なおかつ製造する場所(蒸溜所)は収穫場所の近く、つまりサトウキビの産地である必要があります。
このようにワインにも似た、農業的なラムであることから「アグリコール(農業生産品)」という名称なのでしょう。

アグリコール製法ではサトウキビジュースを使用する

アグリコール製法ではサトウキビジュースを使用する

製法としてはとてもシンプルですが、確立されたのは19世紀頃。マルティニークなどフランス領で造られるようになったとされています。
前述したように産地と製造時期が限定されるため、「アグリコール」は世界のラムの1割程度にすぎない少数派とされています。
味わいの傾向としては、熱も加わらないフレッシュな状態のジュースを使用するため、サトウキビ本来の風味が活かされ、香りも豊かなラムが多いとされています。

なお、このタイプのラムは、ボトルのラベルに「AGRICOLE」と記されていることがほとんどです。

「アグリコール」タイプの主なラム

トロワリビエール (マルティニーク)
ジーエム/JM (マルティニーク)
クレマン (マルティニーク)
デパズ (マルティニーク)

ラムのタイプ③:ハイテストモラセス

サトウキビ100%のジュースをシロップ状に凝縮させ、原料として使用するラムの製法を「ハイテストモラセス」と呼びます。
「アグリコール」と同じく砂糖は造らずに、ラムを造るためだけにサトウキビを使用するのですが、搾ったジュースはそのまま使用しません。加熱することで水分を飛ばし、シロップのように凝縮させ、それを発酵・蒸溜させるのです。
糖蜜に似てるようにも感じられるかもしれませんが、糖蜜は砂糖を取り除いたシロップであるのに対し、「ハイテストモラセス」はサトウキビ100%のシロップ。糖蜜に比べ、糖度が70〜80%と高いのが特徴です。
その一方で、他のシロップ類と同じように保存できるため、糖蜜を使う方法と同じく、通年でラムの製造が可能です。
シロップ状ではあるものの、サトウキビ100%であるため「アグリコール」のように原料由来の風味も感じられるのも、このタイプの大きな特徴と言えるでしょう。
いわば「トラディショナル」製法と「アグリコール」製法の良いとこどりをしたのが「ハイテストモラセス」です。

ハイテストモラセス

ハイテストモラセスは、サトウキビジュースを凝縮させたもの

3つのタイプの中では、最も新しい革新的な手法であり、日本でも人気の「ロン サカパ」や「ディクタダール」などで採用されています。
また、日本の「ナインリーヴス」のように、黒糖を原料とするラムもこのタイプに当てはまるようです。

「ハイテストモラセス」タイプの主なラム

ロン サカパ (グアテマラ)
ディクタドール (コロンビア)
イエラム (日本)
ナインリーヴス (日本)

著者:小針 真悟

[LiquorPage運営責任者] お酒の現場を7年経験したのちに独立。お酒の魅力を多くの人に知ってもらうべく、2016年11月に「LiquorPage」の運営を開始。 洋酒から和酒まで幅広い知見をベースに、様々な酒類専門メディアの執筆・編集のほか、酒類イベントの企画運営やWEB制作、プロモーション業にも携わる。写真撮影も行うなど、お酒を通じた様々な制作業を一人でこなす。(ただの酒好き)

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