クラフトビールの流行とともにベルギービールの人気も高まっています。
「ビールといえば苦いもの」そう思っている方は多いかもしれません。
しかしベルギービールにはその概念を覆す、実に多種多様なタイプ・味わいのビールが存在します。
つまり苦いビールが苦手だった方でも楽しめる世界がベルギービールにはあるのです。
この懐の深さ、奥の深さがベルギービールの良さではありますが、初心者の方からするとあまりに多様なタイプに難しさを感じてしまいます。
そこで本記事では主にベルギービール初心者の方向けに、ランビックやホワイトエール、トラピストビールなど代表的なベルギービールのスタイルを簡単に解説していきます。
- トラピストビール
- アビイビール
- セゾンビール
- ホワイトエール(ベルジャンホワイト)
- ストロングエール(ゴールデンエール)
- ブロンドエール
- ダークエール
- ダブル
- トリプル
- フランダース・レッドエール
- ランビック
ベルギーならではのビールスタイルはほぼエールに属する
ビールは大きく分けて主にラガーかエールの2タイプに分けられ、ラガーの中のピルスナー、エールの中のペールエールといったようにそこからさらに細かく分けられます。
ここでご紹介するビールタイプは全てエールタイプに属します。
ここではこの2タイプの詳しい解説は割愛させていただきますが、簡単にお伝えすると日本の大手メーカーのビールはラガー(ラガーの中のピルスナー)に属します。
つまりここでご紹介するベルギービールのタイプは、大手メーカーのノドごし重視の淡麗辛口ビールとは違った特徴を持っているということです。
⇒ビールのラガーとエールの違いとは?をわかりやすく説明!
それではビールスタイルについて見ていきましょう。
生産者のタイプで分けられるビールスタイル
ベルギービールの代表的なスタイルとも言えるトラピストビールは、実は製法や味などで分けられたスタイルではなく生産者のタイプによって定義されています。
トラピストビール以外にも生産者のタイプによって分けられたビールがありますので、ここではそれらについて解説します。
トラピストビール
修道院ビールとも言われます。ただしトラピストビールと名乗るものは、キリスト教のトラピスト会という会派の修道院内で作られていなければなりません。(名乗るためには承認が必要)
現在世界でもトラピストビールにあたるものは11しかありません。そのうち6つがベルギーにあります。
後述するアビイビールも含む修道院ビールはしばしば「ダブル」「トリプル」と呼ばれるスタイルのビールを作っており、ダブルはアルコール度数7度前後の色が茶色いビールで、トリプルは9度前後と度数が高い黄色いビールです。これら2つについて詳しくは後述します。
シメイ、ロシュフォール、ウェストマール
そうでなければ日本で飲むことはほぼ不可能ですからね。
アビイビール
アビイビールもトラピストビール同様修道院ビールとも言われます。
ただしこちらは大まかにいえば「修道院にルーツをもつビール」でトラピスト会である必要はなく、さらにいえば修道院内で作る必要もありません。
実情としては修道院で作られていたビールのレシピやランセンスを借りて民間の醸造所が作っています。
レフ、パーテル・ブロンド、サンフーヤン・トリプル
セゾンビール
セゾンビールは元々農家が作っていた自家用ビールです。各農家が独自の製法で作っていたため度数や色、味わいなどは様々ですが、現在ではアルコール度数は6度前後で、ホップの効いた黄色いビールが主流となっています。味わいはやや酸味のある爽やかなタイプが多いです。
セゾン・デュポン、セゾン・ドッティニー、サンフーヤン・セゾン
製法や色・度数で分けられるビールスタイル
上記のトラピストビールやセゾンビールが生産者やそのルーツに所以があるスタイルなのに対し、ここでご紹介するスタイルは製法や色・度数などで分けられたものです。
ホワイトエール(ベルジャンホワイト)
ホワイトエールとは、大麦麦芽だけでなく原料の一部に小麦やスパイスを使用しやや白く濁ったビールを言います。原料の小麦は発芽させていないもの(麦芽ではないもの)を使用し、スパイスにはコリアンダーシード(パクチーの種。パクチーの葉とは味は全く異なる)やオレンジピールなどを使用するのが一般的。
苦味が少なく、フルーティーで非常に爽やかなビールでやや酸味があるのが特徴。ビールが苦手な方でも飲みやすいものが多いです。
「ベルジャンホワイト」などと記されているビールもこれにあたります。
ヴェデット・エクストラホワイト、ヒューガルデン・ホワイト、セリス・ホワイト
※ベルギービールではありませんが、近年日本で人気のブルームーンや水曜日のネコ、常陸野ネストビールのホワイトエールなどもこれにあたります。
ストロングエール(ゴールデンエール)
アルコール度数が7〜12度の高アルコールビールを言います。色が淡く金色のものをペールストロングエール、または単純にゴールデンエールとも言い、逆に色が茶色がかったものをダークストロングエールとも言います。
瓶詰め後も発酵させるものが多いため、泡立ちがきめ細かく、多少の苦味もありますがフルーティーな味わいになることが多いです。
度数のわりに飲みやすいものが多いせいか、デュベル(悪魔)やギロチンなど銘柄名がややダークなものが目立ちます。
デュベル、デリリウム・トレメンス、ギロチン
ブロンドエール
ブロンドエールは色が明るい黄色のビールの総称。
前述のゴールデンエールとの違いはほぼありませんが、ブロンドエールの方がやや濁った黄色でまろやかな味わいのビールが多いです。また、ラベルには「Blonde」「Blond」と記されることが多いため、この表記があればブロンドエールと言って良いでしょう。
他にも、トリプルと名乗っているビールもこのブロンドエールにあたります。
レフ・ブロンド、サンフーヤン・ブロンド、マレッツ・ブロンド
ダークエール
ブロンドエールに対し、色が暗い茶色や黒っぽいビールの総称がダークエール。
やや黒く焦がした麦芽も使用することでその色合いとなっており、色で分類されているためダークエールに該当するビールはかなり多いです。
アルコール度数は様々ですが8度前後のものが主流で、色のわりに苦味がそれほど強いわけではなく、むしろ香ばしい麦の甘みを感じるものが多い傾向になります。
ベルジャンブラウンエールなどと言われることもあり、ラベルには「Bruin」「Brune」などと記されています。他にもダブルと名乗っているビールもダークエールに該当します。
レフ・ブラウン、シメイ・レッド、デリリウム・ノクトルム
ダブル
正式にはビールスタイルを表したものではありませんが、ベルギービールのとりわけ修道院ビールではしばしばダブル、トリプル(後述)といった用語が見られます。
これは主にアルコール度数と色によって分けられており、ダブルなら7度前後の色が茶色のビール(ダークエール)となります。
シメイ・レッド、ロシュフォール6、ブルッグスゾット・ダブル
トリプル
上記のダブルに対してトリプルの場合、9度前後の色が黄色いビール(ブロンドエール)となります。
ちなみにダブル、トリプルの分類は「シングル」というアルコール度数3度前後のビールが基準となっており、これを2倍にしたものがダブル、3倍にしたものがトリプルとなっています。(実際はアルコール度数ではなく、麦汁の初期比重によって測ります)
シングルは修道院内で飲まれるビールで一般には流通しません。
ウェストマール・トリプル、シメイ・ブルー、トリプル・カルメリット
フランダース・レッドエール
レッドエールは赤みがかった色合いのビールの総称。そのレッドエールの一種であるフランダース・レッドエールは、ベルギーのフランダース地方で作られるビールで樽熟成を経るものを言います。様々な熟成年数のビールをブレンドして製品化するものが多く、若いビールのブレンド比率が高いものを「クラシック」、古いビールの比率が高いものを「グランクリュ」と言い、古いビールのみのものを「ヴィンテージ」と言います。
ランビックほどではありませんが酸味が強い傾向にあり、熟成により味わいに深みがあるのも特徴です。
フランダース・ブラウンエールというスタイルもあり、こちらは同地方西部で同じようにして作られるやや茶色いビールです。(ややこしいですがベルジャンブラウンエールとは全く別物です)
ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ、ローデンバッハ・グランクリュ、バッカス
ランビック
ランビックは自然発酵ビールとも言われるビールで、通常は人の手によって加える酵母ではなく、醸造所に棲みつく野生酵母を使用して発酵させます。
1〜3年程度は樽で熟成させるのですが、その際も発酵は進んでおり、それら複数の熟成年数の樽をブレンドして瓶詰めすることによって瓶詰め後も発酵が進みます。(瓶内二次発酵という)
なおこのように若いランビックと古いランビックをブレンドしたものを「グース」と言い、日本で見かけるランビックのほとんどはこのグースにあたります。
グースの他にも、糖類を加えて甘くした「ファロ」、フルーツを漬け込む「フルーツランビック」があります。
ランビックは強い酸味を特徴とするビールで香りも「馬の毛布(要するに動物的な臭い)」などと例えられるように独特で、また熟成させた古いホップしか使用しないことにより苦味が抑えられており、かなり個性的な味わいとなっています。
一般的なビールとは全く異なる「酸っぱいビール」です。
なおランビックは、記事冒頭で説明したラガーやエールには分類されず、これらとは全く異なる種の野生酵母を使用しているため「自然発酵ビール」という区別が一般的です。
しかし、野生酵母だけでなく一部にエールと同じ酵母を使用しているのでエールに分類しても問題ないと思います。
カンティヨン・グース、ブーン・グース、ブーン・クリーク(フルーツランビック)
まとめ
以上が代表的なベルギービールのスタイルとなります。
ここで挙げたスタイル以外にも様々なスタイルのビールがベルギーでは作られており、その区別もかなり曖昧だったりします。
そもそも生産者は「〇〇スタイルのビールを作る」といったように、明確にスタイルを決めて作られないことが多いらしく、これによりかなり曖昧な区別になっているのだとか。
とはいえベルギービールの通販サイトや専門店などでは各銘柄にスタイルを記してあることが多く、その他のお店でも店員さんに聞けば教えてくれることでしょう。
あまり難しいものとは捉えず、ぜひ気になったスタイルはまず試してみてください。
ちなみに筆者はピルスナースタイルのビール(日本や海外の大手ビールなど)が苦手で、自ら進んで飲むことは少ないのですが、ベルギービールの各スタイルに関してはむしろ好みで頻繁に飲みます。
それぐらい一般的なビールとは異なる世界がベルギービールにはあるということですね。
それではこの辺で。
【参考文献】
ベルギービールガイドブック:世界を魅了する無形文化遺産のビール(サンタルヌー) 著・佐藤庸介
ビール王国 Vol.10 株式会社ワイン王国