ビール純粋令〜ビールの原料はなぜ大麦とホップで定着したのか?

ビール純粋令・原料が大麦とホップで定着したワケ

ビールの主な原料といえば大麦麦芽が知られています。
他にもホップを使用することでも知られていますね。
小麦やハーブ類なども使用されることがありますが、一般的にビールの主原料といえば「大麦(大麦麦芽)とホップ」です。

しかし実は、約5000年というビールの長い歴史において、これらの原料が一般化したのは16世紀ごろ。
それまではビールの原料は定まっていませんでした。

本記事では、ビールの原料がどのようにして「大麦とホップ」で定着していったのか、ビールの歴史を踏まえながら解説していきます。
これには、タイトルにもある「ビール純粋令」という法律が関わっているのです。

ビールの原料を定めた「ビール純粋令」が施行

1516年にバイエルン公国(現在のドイツ南部辺り)の君主であるウィルヘルム4世は「ビール純粋令」を発表しました。
これはビールの原料を定めたもので、「ビールは大麦、ホップ、水のみを原料とすべし」というもの。

これによりビールの原料は「大麦、ホップ、水」で一般化され、今日に至るとされています。
ちなみにビール純粋令は、食品規定としては世界最古のものとも言われています。

ビール純粋令を出すに至ったわけ

そもそもなぜ、このようにビールの原料をあえて定めなければならなかったのか。
それは、当時ビールの原料は定まっておらず、品質が安定していなかったからとされています。
大麦が主な原料だったにしても、様々な穀物を混ぜて造られることもあり、品質が保証されていなかったのです。

しかし、ビール純粋令で大麦や水が定められたのは分かるにしても、なぜホップも定められたのでしょうか?

ホップ以前はグルートと呼ばれるハーブ類が使用されていた

ホップの写真

ホップは松かさのような形をしている

ホップとは、様々な効用を持つハーブの一種で、ビールにおいては保存効果を高めたり、香味づけに使用されています。
しかし、ビール純粋令が出される以前は、「グルート」と呼ばれるまた別なハーブ類を配合したものが使用されていました。

これはヤチヤナギやアニス、コリアンダー、フェンネルなどを配合したもので、レシピなどは生産者たちの間で秘密に。
用途はホップ同様、ビールの腐敗を防ぎ保存効果を高めたり、香味づけ使用されていました。

ホップの方が原料として優秀だった

なぜグルートがホップに置き換わったのかというと、単純に原料として、ホップの方が優れていたから。
保存効果にしても、ビールに与えられる香味にしてもホップの方が優れていたのです。

ビール純粋令でグルートはホップに置き換わった

ビール純粋令が出された以前から、一部でホップは使用されていたのですが、主流はグルートでした。
しかし、ビール純粋令にて「大麦、ホップ、水」が原料として定められてからは、効力で優れるホップに置き換わったとされています。

そもそもホップが与える香味とは?

ホップが与える香味についてはあまり知られていませんが、実は「ビール風味を決めるのはホップ」という人もいるほど重要な役割を果たしています。
実はビール独特の苦味やハーブのような青々しい香りはホップによるものなのです。
そもそも大麦だけではビールは甘くなり、香りも同様に甘いものになります。(ビールの前段階である麦汁を味わってみるとわかります)

ビール純粋令にはビールの品質向上以外にも目的が…

ビールの品質向上(安定)を目的として施行されたビール純粋令ですが、実は他にも目的があったとされています。

小麦やライ麦はパンの原料としても貴重

小麦やライ麦は食料としても貴重だった

それは、食料確保のため
不作の年には大麦以外の、例えば小麦やライ麦などがビールではなく食料として優先されるよう、そう定めたとされています。
食料の保存技術や加工技術など十分に発達していなかった当時は、パンや麺類などにも使用される穀物類は非常に重要な食料でもあったのです。

このようにビール純粋令は食料政策の一面もあり、原料に大麦を定めたのにはワケがあったのですね。

小麦ビールは特定の醸造所しか作れなかった?

「大麦、ホップ、水のみを原料とすべし」としたビール純粋令ですが、ここで疑問が一つ。
ドイツ周辺では昔から小麦を使ったビール、ヴァイツェンが作られていました。

ヴァイツェンはどうなったのか?
どうやらこれについては、領主直営の醸造所だけが特例として小麦ビールであるヴァイツェンの生産を認められていたようです。

頭ごなしにヴァイツェンも認めないとしたものではなかったようですね。

まとめ

ビールの原料がビール純粋令によって定められたのは16世紀ごろ。
意外と昔から原料が定められており、これが現在にも続いていることがわかりました。

最後にまとめると…

  • ビール純粋令によって「大麦、ホップ、水」が原料として定められた
  • それまでは原料が定められておらず品質が安定していなかった
  • それまではホップではなくグルートを使用していた
  • ビール純粋令には食料確保の目的も

当時大きな影響があったとされるビール純粋令ですが、ある程度の柔軟性もあったことにより、ヴァイツェンなど多様なスタイルのビールが今に残ったり、新たに生まれたりしたのでしょうね。

それではこの辺で。
以上「ビール純粋令〜ビールの原料はなぜ大麦とホップで定着したのか?」でした。

【参考文献】
改訂新版日本ビール検定公式テキスト|日本ビール文化研究会

著者:小針 真悟

[LiquorPage運営責任者] お酒の現場を7年経験したのちに独立。お酒の魅力を多くの人に知ってもらうべく、2016年11月に「LiquorPage」の運営を開始。 洋酒から和酒まで幅広い知見をベースに、様々な酒類専門メディアの執筆・編集のほか、酒類イベントの企画運営やWEB制作、プロモーション業にも携わる。写真撮影も行うなど、お酒を通じた様々な制作業を一人でこなす。(ただの酒好き)

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