日本には伝統的なお酒がいくつかありますが、それらは実は少しずつ進化しています。
改めて味わってみると、新たな発見があるかもしれません。
南国沖縄の伝統酒・泡盛といえば、日本最古の蒸溜酒ともされる歴史の長いお酒ですが、泡盛もまた、進化をしようとしているお酒の一つ。その進化の象徴とも言えるのが、2019年秋にリリースされた、若手の造り手たちが手がける新泡盛「尚(しょう)」です。
那覇市の瑞穂酒造や瑞泉酒造など、泡盛メーカー12社が12商品をリリースするというユニークなプロジェクトですが、今回は「尚」がなぜ、どのように新しいのか、その誕生までのストーリーに触れながら、どんな泡盛なのかご紹介していきます。
新泡盛「尚」は、カクテルが好きの方や、今まであまり泡盛を味わってこなかった方にこそ、オススメできるものかもしれません。
泡盛を良くしていきたい一心でスタートした「尚」のプロジェクト
伝統というものは、全く変わらないだけのものではなく、時代に合わせて少しずつ変化していくからこそ、長く続くのではないでしょうか。
「尚」は、3回蒸溜という新しい製法で造られる、泡盛の新たなイメージ像を形にした“新泡盛”。カクテルのベースとしても愛される洋酒のようなスッキリとクリーンな味わいを軸に、和酒らしい旨味も感じさせるハイブリットなお酒です。
ことの始まりは2017年。沖縄国税事務所の主導のもと始まった、泡盛メーカーの若手造り手を対象とした勉強会が、「尚」誕生のきっかけとなりました。
毎月開催される勉強会では、泡盛業界を盛り上げるべく、技術向上のプログラムやディスカッションなどが行われ、泡盛をゼロベースでとらえ直すことに。そこで浮かび上がったのは、“泡盛は時代に合わせた変化をしてこなかった”ということ。もちろんこれは良い面でもあるものの、当時、沖縄国税事務所の鑑定官として勉強会の講師を務め、プロジェクトの立ち上げに深く関わった宮本宗周(むねひろ)さんによれば「焼酎業界がその時代に合った飲み方を提案し、酒質も変化させてきた一方で、泡盛は良くも悪くも変化をさせてきませんでした。例えば、泡盛特有の油っぽい口当たりを業界では良しとしてきました。しかし、アルコール度数を落としてスッキリ飲めるソーダ割りのような飲み方が求められている時代において、こうした風味は合わないんです」と言います。
そうした課題と向き合い、時代に求められている品質の泡盛を生み出そうと始まったのが「尚」のプロジェクトです。
和の甘さと洋にも通づるクリーンな味わいを目指し行き着いた新製法
では具体的に、どのような泡盛を目指していったのでしょうか?
世界的に見れば泡盛は、ジンやウォッカ、一部のテキーラやラムなどと同じホワイトスピリッツ(無色透明の蒸溜酒)。そのホワイトスピリッツは、酒類別で味わいは異なるものの、酒質がクリーンであるという点は共通しています。
しかし、これまでの泡盛業界は、ブランデーやウイスキーなど茶色づいたブラウンスピリッツに近い香味を良しとしてきたのだそう。そこで参加メンバーらは“泡盛はホワイトスピリッツである”ととらえ直し、従来のクセを抑えた、カクテルにも向くようなクリーンな酒質を追求していくことに。焼酎とは異なり、米麹のみを原料として造られる泡盛のアイデンティティを引き継ぎながら、その世界への入り口となるような、新しい味わいの“新泡盛”を開発することとなりました。
それを実現させるべく考えた方法こそが“3回蒸溜”です。
泡盛は伝統的に、1回のみの蒸溜で造られるお酒。対して世界のスピリッツは、ほとんどが2回以上の蒸溜で造られています。
蒸溜とは、アルコール度数を高めるための工程で、その回数が多いほど、原料由来の香味が少なくなる一方、酒質がクリーンになっていきます。
ではなぜ3回なのでしょうか?
開発の中心人物でもある瑞泉酒造の伊藝壱明(いげいかずあき)さんは次のように語ります。「2回蒸溜はもちろん、様々な手法を試しましたが、クリーンで新しい酒質という点では、もの足りなかったんです。それで3回ならどうかと試したところ、米麹由来の甘さとクリーンさが両立している目指すべき酒質になりました」。
そうして、新しい泡盛「尚」のベースが出来上がりました。
同じ製法とスペックながら12社の個性を持つ「尚」
「尚」の大きな特徴の一つとして、泡盛メーカー12社が全く同じ製法でそれぞれの「尚」を手がけたことが挙げられます。
そもそも勉強会をきっかけに始まった「尚」は、ある意味その成果でもあるのです。
全く同じ製法とスペックではあるものの、それぞれ自分たちの拠点で製造し、目指す香りと味わいも微妙に異なっていたことから、メーカーごとのキャラクターを持った「尚」が出来上がったのだそう。
その仕上がりについて伊藝さんは、「泡盛らしい米麹100%の和のテイストと、ホワイトスピリッツのクリーンさを兼ねそろえた世界のどこにもないホワイトスピリッツが表現できました。とはいえ12種類で違いははっきり出ており、例えば弊社の尚はフルーティーで清酒にも似た感じがある一方で、瑞穂酒造さんの尚はドライで清涼感があります」と語り、メーカーごとの違いを楽しめる仕上がりになっているのだそうです。
そしてもう一つ、「尚」はアルコール度数が40度で統一されていることも特徴的です。
これは、ホワイトスピリッツとしての泡盛という点を重視して決められた度数です。
世界のホワイトスピリッツは、カクテルのベースとしても親しまれており、それに適した40度前後が採用されています。
今までの泡盛は一般的なタイプで30度前後でしたが、泡盛が世界のホワイトスピリッツと肩を並べる存在であり、カクテルにも向くと世界にアピールするべく40度に統一したのです。
カジュアルな飲み方やカクテルにも対応できる「尚」の飲み方
このように、目指すべき味わいを実現すべく、新たな製法によって誕生した「尚」。米麹の甘さに加え、世界のホワイトスピリッツに通づるクリーンさが感じられる味わいは、そうしたスピリッツと同じような飲み方で楽しむことができます。
「ソーダ割りとトニックウォーター割りは、尚の12社の違いを楽しめる一番スタンダードなカクテルと言えるかもしれません」と話すのは、開発の中心メンバーの一人である瑞穂酒造の仲里彬さん。そのレシピは尚:1に対して、ソーダまたはトニックウォーター:3〜4が良いそう。もしあればライムやレモンを最後に搾ると、より爽快に楽しめるそうです。
「尚 × コーヒー」のカクテル
一方で泡盛といえば、現地ではコーヒー割りが飲み方の一つとして浸透しています。
「尚」はそうした飲み方を、洗練されたカクテルとして楽しむことができます。
例えば、東京・四谷のカフェバー「TIGRATO」で提供されているのは「首里コーヒー」というカクテル。
こちらは人気のコーヒーカクテル・アイリッシュコーヒーの「尚」バージョン。濃密な泡とコクのある甘苦さを堪能できそうです。
⇒トッププロに聞く、初心者にもおすすめのコーヒーカクテル厳選4選
一方、名古屋市のカフェバー「COFFEE BAR BONTAIN」で提供されているのは「泡盛コーヒートニック」。
こちらは近年注目を集めるコーヒートニックの「尚」バージョン。「尚」のクリアな甘さと、コーヒートニックの爽やかな酸味が活きたカクテルです。
こうした様々なカクテルとしても楽しめる「尚」は、バーによく行く方やカクテルラバーの方にもオススメ。また、クセのある香りをあえて抑えるように設計されているため、泡盛を飲んだことがない方にもオススメできます。
新しい泡盛のイメージと可能性を追求した「尚」を入口に、伝統的な泡盛の世界に踏み入れてみるのも良いでしょう。
まずは一度、味わってみては?
詳細
【尚 ZUISEN】
容量:720ml
度数:40%
希望小売価格:3,520円(税込)
購入先:瑞泉酒造・公式通販
【尚 MIZUHO】
容量:720ml
度数:40%
希望小売価格:3,520円(税込)
購入先:瑞穂酒造・公式通販
【参加メーカー全12社】
石川酒造場、神村酒造、金武酒造、崎山酒造廠、瑞泉酒造、請福酒造、まさひろ酒造、瑞穂酒造、ヘリオス酒造、八重泉酒造、やんばる酒造、米島酒造
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