今年2月に行われた「バカルディ レガシー カクテル コンペティション 2020 (以下バカルディレガシー)」の日本大会で見事優勝し、世界大会への切符を手にした、ザ・リッツ・カールトン京都のヘッドバーテンダー・浅野陽亮さん。
世界で最も権威があるとされるカクテルコンペティション(以下コンペ)の一つで、日本一に輝くようなトップバーテンダーは、一体どのようにカクテルを生み出しているのでしょうか?
今回は浅野さんにインタビューを行い、“安らぎ”がテーマの優勝カクテル「ALIVIO」の誕生ストーリーや、一杯のカクテルが誕生するまでのプロセス、こだわりなど、バーテンダーのリアルについて語っていただきました。
馬の世話係からバーテンダーへ…自身の経験からくる思いを込めた優勝カクテル
– それではまずは、そもそも浅野さんがバーテンダーになった理由と経緯について聞いても良いですか?
浅野(敬称略): 実は、大学卒業後にまず選んだ職はバーテンダーではなく、北海道の牧場での馬の世話の仕事でした。
学生の時から馬が好きで、卒業後の仕事は自分の好きなことをしたいという強い想いから、そのまま北海道へ。馬の仕事はとてもハードでしたが、やりがいがあり、楽しかったです。ただ、2年が過ぎたあたりで一つだけ自分の中に満たされないものを感じました。それは人との新たな出会いやふれ合いがほとんどなかったことです。だからそれを満たすために新たなことにチャレンジしてみようと思いました。
それで礼文島でホテルの仕事に就くことになり、ドイツでの和食店を経て、今度は石川県のホテルで働くことになるのですが、色々な部署を回りながらバーにも入るように。次第にバーテンダーという職に魅せられていきました。
バーテンダーは自分でサービスもできますし、シェフのように作ることもできます。自分で一貫してできる”トータルサービス”です。お客様とも距離が近く、馬の仕事の時に引っかかっていた思いがつながった気がしたのです。
バーテンダーという職に絞った後は、東京でホテルバーなども経験し、今から10年ほど前に地元京都へ戻ってきました。
– いつもどのように新たなカクテルを生み出しているのでしょうか?
浅野: まず大きく分けて、自分がしたいこと、そしてお客様に喜んでもらうこと、この2つの路線があります。
それらを上手くつなぎ合わせた時、一つのカクテルが完成します。
自分がやりたいことだけでは、お客様の満足も含め大事なことを見逃してしまう気もします。
常に自分はまだまだ足りてないと考えているので、一つでも多くの意見をいただくなど客観的にも精査しながら、それを繰り返してようやく一つのカクテルが仕上がります。
私の場合、サクサクとカクテルを作り出せることはほとんどないですね。
– バカルディレガシーの優勝カクテル「ALIVIO」は、“安らぎ”がテーマですが、そのテーマにはどのように行き着いたのですか?
浅野: ALIVIOには「心休めて自分とゆっくり向き合おう」という思いを込めています。
自分の人生を振り返ると、私は常に自分の心に正直に生きようと心がけてきました。
馬の仕事を始めようとしたとき、周りの人からは反対されていました。それでも、自分がやりたいことをやらない後悔はしたくないという思いが強く、結局はやる選択をしたのですよ。バーテンダーという職を選択した時もそうでした。
そうした自分の経験からくる思いをどう伝えられるか考えた時、例えば、人生の選択に迷ったお客様がバーで一杯のカクテルを飲みながら、心を休め、自分とゆっくりと向き合いながら、自分の心に正直になることができたとしたら、それはバーテンダー冥利に尽きるなと思いました。
そして、その時間はきっとお客様にとって、ひとときの「安らぎ」の時間なのではと思い、スペイン語で安らぎを意味する「ALIVIO」と名付けたのですよ。
– カクテルとして完成させるべく、味やレシピはどのように決めていったのですか?
浅野:イチから新しいものを作るというより、私はよく、クラシックカクテルをツイスト(アレンジ)することから始めます。
ALIVIOは、自分が一番好きな「ラストワード」というカクテルのイメージを元に、まずジンの代わりにバカルディエイト(ラム)を使うことから始まり、そのスパイシーさを引き立たせ、甘みも持たせるために生姜シロップを合わせました。
次に、カクテルのコンセプトが「安らぎ」なので、液体にトロミが出た方がゆっくり飲んでいただけると考え、思いついたのがフレッシュバナナです。
カクテルでの使用例はあまりなかったのですが、世界中どこでも手に入る上にバカルディにもよく合います。
シャルトリューズ ヴェール(ハーブリキュール)のキリッとしたハーブ香とも相乗効果があり、しっかりまとまってくれました。