仕上がりを洗練させるカクテル&バーツールブランド『BIRDY. by Erik Lorincz / バーディ バイ エリック・ロリンツ(以下、BIRDY.)』を知っている方は多いと思います。
国内外の一流のバーテンダーたちから絶大な支持を得るブランドです。
その質の高さもあって、一般的なバーツールよりも高価であることでも知られています。
なぜ高価なのか、気になる方も中にはいるかもしれません。
今回LiquorPageでは『BIRDY.』を手がける横山興業(愛知・豊田市)の製造拠点を、普段そのツールを愛用しているトップバーテンダーたちと訪問。
主に、主力製品であるカクテルシェーカーを中心に、最高峰のバーツールがどのように造られているのか、見学してきました。
当記事では、まずはブランドの成り立ちについてご紹介し、後半に製造現場の様子を写真を多用しながらご紹介します。
製造現場を見てみると『BIRDY.』には価格に見合う、もしくはそれ以上の手間やこだわりが詰まっていることがわかりました。
「シェーカーの内側を磨いたら味が変わる…」『BIRDY.』の誕生から今に至るまで
日本における自動車産業の中心地である豊田市で、自動車用シートにまつわる部品などを手がけてきた横山興業。
同社の横山哲也さんが中心となって2013年に立ち上げたブランドが『BIRDY.』です。
自動車部品において高い技術力を誇る同社でしたが、新しい分野で日本的なものづくりをしたいと考え、自社の技術を棚卸しした際に、浮かび上がったのが金型の研磨の技術を応用したものづくり。
ずっと金属を扱ってきた同社だからこそ、それを使って何か付加価値を生み出そうと考えたのだそうです。
また、企画者の横山さんは、元々バーが通うほど好きだったそうで、シェーカーなど多くの金属製ツールを使用する“バーツール”という分野なら、情熱を傾けられると思い『BIRDY.』の企画が始まったのだそうです。
様々なアイディアがあった中で、まず開発に動いたのは、ステンレス製のカクテルシェーカー。
カクテルを作る際に、素材同士を混ぜ合わせるべく前後に振って使用するシェーカーですが、ステンレス製であれば少なからず研磨はされており、振ることで、その内側では、液体と氷が研磨された金属部分に触れながら大きく動くという、一種の“運動”が起きているのだそう。
だからこそ、内側部分の研磨度合いを変えれば、中身の仕上がりも変化すると考え、バーテンダーの協力を得て実際にギムレット(人気のジンカクテル)を作って試してみたところ、試作したバーテンダーも含め、居合わせた全員の鳥肌が立つほどに味が洗練されたのだそうです。
「おそらくですが、シェーカーの内側を磨いたら味が変わるということに気づいたのは当社が初めて。(試作を重ねていく中で)売れるというよりは、商品化しなきゃいけないという責務を感じるようになりました」と、当時を振り返るのは企画責任者の横山さん。
そうして2013年に初商品となるカクテルシェーカーを発売しました。
ちなみに、同社のシェーカーといえば、上部のストレーナー部分の肩(出っ張り)がなく、丸みを帯びたフォルムが特徴ですが、横山さん自身が以前はデザイナーだったこともあり「いくら性能が良くても、デザインがよくないものは愛されない」という考えから、バーテンダーの協力も得ながらデザインにはこだわったんだそう。
「(肩の部分は)バーテンダー向けの教材などでは指をかける場所…ともされていますが、ものづくりの視点で調べてみると、作る際に必要なつなぎの部分だったことがわかりました。シェーカーで最も大事なのは(中の液体が)漏れないことですが、加工時に数トンもの力が入ると(漏れの原因となる)歪みが発生しやすい性質を、骨組みとして肩を入れることで安定させていたんです。BIRDY.のシェーカーはその骨組みをなくすデザインを採用しました」と横山さん。
その前例のないこだわりを実現させる上で、当初は苦労したそうですが、度重なる試行錯誤を経て、漏れがなくなっていったのだそうです。
「ハメ合わせの部分は本当に難しく、かなり苦労しました。ですが、この肩がないデザインだからこそ、見た目で“BIRDY.”だと一発でわかっていただけますし、こだわってよかったと思っています」と横山さんは語ります。
その後、同社は、回しやすいバースプーンや液切れのよいメジャーカップなど、バーの現場で欠かせないツールをブラッシュアップさせた製品を発売。たった数年でトッププロ御用達のブランドにまで成長し、昨年にはカクテルトングも発売するなど、幅を広げています。
一方で、シェーカーと並ぶ人気商品となった、回すだけで味わいが変化するというデキャンタは、バーの現場だけでなく、ワインを多用するレストランなどでも愛されています。
また、近年はプロの現場だけでなく、家飲みの満足度を上げるツールとして、自宅用としても人気を集めています。
データを管理しながらミクロレベルで研磨
ブランドの成り立ちについて知っていただけたところで、実際にどのように製造しているのかご紹介していきます。
前述したように『BIRDY.』のシェーカーといえば、その真髄は“研磨”にあります。
実は同社は、ステンレス部分の成形までは、有名な産地である新潟・燕三条市のメーカーに委託。
研磨においても、製品の外側の研磨(見た目のための研磨)と内側の研磨(機能性のための研磨)では、性質が違うそうで、外側はトヨタ製品なども担当する愛知の研磨業者に依頼。
横山興業の強みであり、カクテルの仕上がりに直結する内側の研磨、つまりシェーカーとしての機能を高めるための研磨のみを自社で行なっているそうです。
その磨き方にも特徴があるそうで、一般的な研磨が横方向に行うのに対して『BIRDY.』で用いられているのは縦方向の研磨。
「シェーカーの中の液体の動きに合わせて、ミクロレベルで縦に磨いていきます。シェイクの動きの流れに沿うように磨いていくことで素材が動くスピードが上がるんです」と話す横山さん。
では研磨することでどう変化するのか?
実はシェーカーの内側には、ミクロレベルながらも、ギザギザのような凹凸があり、それを磨いていくことで凹凸がなだらかになるそう。
ようするに、磨いたことでなだらかになった凹凸部分に液体が当たることで、液体のえぐみが上がらず、仕上がりの味わいにも変化が生まれるというロジックだそうです。
しかも横山興業は、凹凸の変化を数値によるデータ管理しており、検査機を用いて基準をクリアしたものだけが製品化されています。
その数値ももちろんミクロレベル。
一切の妥協なく、かなり緻密なデータで管理しながら一つ一つの製品を仕上げているのです。
あえて機械ではなく人の手で研磨
驚くことに横山興業では、ミクロレベルで研磨具合を管理しているのにも関わらず、実際の研磨は機械ではなく人の手で行っています。
というのも、あまりに緻密な技術のため、機械では実現不可能なんだそう。
テストをクリアした研磨職人が、研磨機をひたすら同方向に動かして、研磨しているのです。
しかも、シェーカー1つにつきおよそ1時間も磨いているそうで、かなりの時間を研磨に費やしていることがわかります。
磨けていないのはもちろんだめですが、磨きすぎてもだめ…いかにスイートスポットに入っているかが重要であり、それの見極めができるのが職人の感覚であるからこそ、手作業にこだわっているのです。
「改めて職人さんの素晴らしさ、妥協のなさ、そしてこだわりを感じました」と語るのは、製造現場を間近で見たBar LIBRE(東京・池袋/銀座)などを経営する清崎雄二郎さん。
「シェーカーの研磨のこだわりを実現させるために、1つずつ並外れた手間と時間をかけて作られており、少しのミスも許されない…職人が研磨し、その後また職人が検査をして合格した物だけが世の中に出るという、このこだわりがあるからこそ1杯のカクテルの仕上がりに格段の違いを見せるのだと感じました」
ちなみに、研磨する際は、研磨機の先端のヤスリの部分を適宜変えながら、少しずつ磨いていくそうです。
横山さんいわく、その組み合わせにノウハウがあるとのこと。
日本の自動車産業の中心地で、研磨の技術を磨いてきた同社だからこそ、シェーカー製造にも応用できる高レベルのノウハウがある…シェーカーメーカーとしては新興ながらも、その生み出すベースの技術を元から持ち合わせていたわけです。
そのプロセスの目の当たりにした南木浩史さん(パークホテル東京 Bar The Society/東京・汐留)は「一つ一つの工程に厳しいチェックがあり、なぜ“BIRDY.”製品がこれほどまでに高性能であるか、という理由を目の前で見ることができました。素晴らしい技術、理論で作られた製品であり、(値段が)むしろ安いのではないか、とすら感じました。それを使う側である私たちも、妥協のないカクテルを作っていかないといけないと改めて感じました」と語ります。
まとめ
工場見学の中では『BIRDY.』の製品として完成されたカクテルシェーカーと、10%だけ研磨したシェーカー、50%を研磨したシェーカーを使ってのカクテルの飲み比べも実施。
「圧倒的な違いを感じた」と清崎さんが話すように、磨き具合によって変化するカクテルの仕上がりに参加したバーテンダー一同が驚いていました。
冒頭でもお伝えしていたとおり、今回工場を訪れたバーテンダーたちは、みな『BIRDY.』ユーザー。
実際の製造の様子を見て、普段、同ブランドを使うことで得られる効果や一般的なバーツールとの違いが、どこに由来しているのか腑に落ちている様子でした。
二度目の工場見学となった西山圭さんも「(BIRDY.の)機能性については理解しているつもりでしたが、作業風景を見ることでしかわからない良さやこだわり、そしてブランドへの想いがあるのだと改めて認識しました。同業の方は是非見学に訪れていただきたいですし、まずはバーテンダーとして、ツールを使うことでその良さを伝えていきたいですね」と語ります。
高性能と評判の『BIRDY.』ですが、その裏には、自動車産業の技術力に裏打ちされた、まさに“ミクロレベル”のこだわりに溢れ、日本のものづくりの真髄と言える要素が詰まっていました。
そうした、商品の外側からは見えない一つ一つの小さなこだわりによって、プロも驚くような性能を生み出しているのでした。
バーツールとしては高価なブランドですが、それを上回る対価や得られる効果があるからこそ、世界の一流バーテンダーたちに愛されているのでしょう。
⇒https://reserva.be/birdy_yoyaku_system
⇒https://www.birdy-j.com/
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