国産クラフトジンの先駆けとなり、そのブームの火付け役になったとされるのが、2016年10月に発売された京都産のジン「季の美 京都ドライジン」です。
その季の美が先日、世界で最も権威ある酒類コンペの一つ「インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション 2018(以下IWSC)」における、コンテンポラリー・ジン部門で「トロフィー」と呼ばれる最高賞を受賞しました!
(コンテンポラリー・ジンとは、現代的なジンを指し、今日クラフトジンと呼ばれるようなものの多くがこのカテゴリーに属する)
今回LiquorPageでは、その製造元である「京都蒸溜所」への独占取材を敢行!
代表を務めるデービッド・クロールさんと、製造チームの“マーシー”さんこと佐久間さんに話を伺い、
いかにして京都から世界最高のジンが生まれたのか、その誕生秘話と、今後の展望などを聞いてきました。
なぜ京都でジンを造ろうと思ったのか?
デービッド・クロールさん(以下、クロール):3〜4年前にこのプロジェクトは始まったのですが、ちょっと違うことがしたいと思っていました。
そこで注目したのがジンです。
実は、当時から海外では、クラフトジンを筆頭にジンは成長市場でした。
国内にそうした市場はありませんでしたが、日本には良い水があるし、素晴らしい素材もたくさんある…
だから質にこだわれば、日本の方にも受け入れてもられる美味しいジンができると思い、ジンを造ることになりました。
− それでは、なぜその製造の拠点に“京都”を選んだのですか?
マーシーさん(以下、敬称略):京都は、古き良き伝統が続いている一方で、良いものは吸収していくオープンな姿勢によって発展してきた町だと思っています。
それは今のクラフトジンの流れに重なる部分があると考えました。
それから京都は、土が良く川も多いことにより、採れる素材の質が高く、伝統の食文化を持つ町でもあります。
その中にはジンの素材として、可能性を秘めたものがたくさんありました。
町の歴史、文化にインスピレーションを受けた一方で、素材の産地としての魅力も感じ「ここなら最高のジンが造れるかもしれない」となり、2015年に京都蒸溜所を創業しました。
マーシー:それと実は、うちの代表(クロールさん)が日本に来て、初めて京都に訪れた際に、他の都市とは違う感銘を受けたようで…
自分の中でずっと特別な場所ではあったようです。
ライススピリッツ、9種の和のボタニカル、そして独自の製法…季の美のオリジナリティーはどのように生まれたのか
マーシー:実は、ジンの成分というのは9割以上がベーススピリッツと水によるもので、ベーススピリッツはその半分を占めます。
だからこそ、私たちはベーススピリッツも重要だと考え、日本の食文化を支える「コメ」はその原料になりうるのでは、と考えました。
開発チームで、様々な素材が原料のスピリッツをブラインドテイスティングしたのですが、その結果、満場一致で「コメ」が原料のスピリッツが“良い”となったと聞きます。
値段はもちろん高いんですが、「まず最高のジンを造ってみよう、コストはその後でいい」という考えのもと、結局そのままライススピリッツを採用しました。
マーシー:ちなみに先ほど、ジンの成分の9割以上はスピリッツと水と言いましたが、水も重要(アルコール度数調整に用いるブレンド水)と考え、季の美では、清酒「月の桂」で知られる増田徳兵衛商店さんに、仕込み水(いわゆる伏見の名水)を分けてもらい、使用しています。
− 季の美には、玉露や柚子、山椒、生姜など京都産のボタニカルが使用されていますが、それに至るまでのプロセスを聞きたいです。これらのボタニカルは、ジンでは使用例がほとんどありませんでした。
マーシー:元々、食文化が盛んな京都には、そうした素材の素晴らしい生産者がたくさんいました。
当初から京都らしいジンを造ろうと考えていたのですが、実は試作段階では日本中のボタニカルを試しました。
例えば季の美には、玉露を使用していますが、当初は煎茶も試していたんです。けれど玉露の方が京都らしさがあるし、味も良いということで、玉露を使用するに至りました。
そのようなプロセスで、他のボタニカルも決まっていきました。
クロール:実は、京都で蒸留の認可が降りるまで、(京都では初の試みだったため)想定以上に時間がかかっていました。
そのためイギリスのとある蒸留所にお願いして、輸送したボタニカル個々のサンプルを造ってもらい、京都でブレンドするという試行錯誤を繰り返し、準備を進めていました。
出来上がったサンプルのキャラクターはよく、試作品の出来もよかったのですが、ある世界的なスピリッツ・ライターの方に飲んでもらったところ「美味しいけど、もっとシンプルな方が京都らしいのでは」と言われ、ボタニカルの種類を削り、現在11種類に至ったという経緯があります。
マーシー:日本らしさ、京都らしさって点では、主張が激しいってのは繋がらないんですよね。
複雑さは必要ですが、奥ゆかしさこそ京都ということで…
実はこのボタニカルの種類を削るプロセスは、意見がなかなか合わず、大変だったと聞きます。