先日行われた世界的に有名なプレミアムテキーラ、パトロンのカクテルコンペティション(以下、コンペ)「パトロン ザ・パーフェクショニスト カクテルコンペティション 2018」の日本大会。
ファイナルに勝ち進んだ6名の中から、カクテル「The Best Promise」を創作した中村充宏さん(ザ・ペニンシュラ東京 Peterバー)が見事優勝を果たし、世界大会への出場権を獲得しました。
LiquorPageでは、今回以外にも多くのコンペで結果を残してきた中村さんに独占インタビューを敢行!
優勝カクテルやテキーラについて、バーテンダーとしてのストーリーやこだわりなど計2回に渡ってお送りしていきます。
【中村充宏】
2011年にPeterバーでバーテンダーのキャリアをスタートし、現在はバー全体を統括。2014年にシーバスリーガル、2015年にボンベイ・サファイアのカクテルコンペティションでそれぞれ日本一に輝き、世界大会に出場。また、2017年にはアメリカで開催されたカクテルの祭典「テイルズ・オブ・ザ・カクテル」にて、日本人初のプレゼンターを務めた。
「署名」から着想を得たカクテルで日本一に
– それでは早速ですが…「パトロン ザ・パーフェクショニスト カクテルコンペティション 2018」での優勝カクテル「The Best Promise」はどんなカクテルですか?
中村充宏さん(以下、中村):「The Best Promise」は、すごくシンプルに言うとパトロンのボトルに記された手書きのナンバリングと生産者の署名にインスピレーションを受け、それをカクテルで表現したものです。
だからこのカクテルの器には署名を入れる箇所があります。
今回のコンペでは、「日本の何か」を表現することがお題の一つにあったのですが、署名について調べていくと、織田信長の時代に日本古来の「花押(かおう)」という署名の文化があったことがわかりました。
それは、自分の行き交った生き様をその時々でサインにして表していたものだとされています。
そうした日本古来の生き様も参考に、署名をカクテルに取り入れました。
– 最もこだわったポイントや伝えたいポイントは何ですか?
中村:こだわったポイントは、大きく2つあって、1つは先ほどお話しした署名ですね。直接器に署名をいただくことにこだわりました。また、器は日本の美意識や価値観を表現しつつ環境に優しい紙の器を使用しています。
2つ目は「人生の展開をカクテルの味で表現する」ことです。
コンセプトは「署名」ですが、カクテル全体のストーリーとしては「自分の人生の展開」を表現しています。
– 自分の人生の展開を表現したカクテル?ですか。
中村:自分のこれまでの人生の境遇を各素材に見立てて、それらをカクテルとしてまとめることで人生の展開を表現しました。
私はもともと、ウェディングプランナーの仕事をしていたので、ハネムーンの語源となったハチミツのお酒を使うところから始まっています。
そしてバーに入ったのが2011年の32歳のときなので、業界に入ったのが他の方と比べて遅かったことがあります。
お酒についてあまり詳しく知らなかったり、悔しい思いもたくさんしました。そうした悔しさの涙の味をマンサニージャの塩味で表現しました。
そして、しばらくしてバーテンダーとして知識がつくことで、それぞれの商品の魅力や特性をしっかり伝えたいなと思うようになりました。そこでパトロンのレポサドを使用すると決めました。
というのも、このテキーラを造るにあたって創業者の方達は、わざわざアメリカのバーボンウイスキーの蒸留所に行って樽の勉強をしたそうです。そうした追求する姿勢を伝えたいと思って、その樽で熟成させたタイプであるレポサドを使用しました。
– 他にも独特のシロップや、緑茶なども使用していますよね。
中村:バーテンダーとしての経験を重ね、いろんな機会を得ることによって、最近ではカクテルをとおして他の国の文化を知ったり、逆に日本の文化を伝えたりすることが増えてきました。
テパチェ(パイナップルと黒糖と使ったメキシコの国民的な飲料)のシロップはそれを表現したものとして使っています。
テパチェは、メキシコでは子供の頃から当たり前に飲んでいるものみたいで、文化の一部と言えます。
そして日本からは緑茶を取り入れました。緑茶は実は1610年に田中庄助さんがメキシコに初めて持ち込んでいたそうです。
このカクテルを説明する時、必ずテパチェと緑茶も説明するので、「各々の文化を表現できる」という、いわば文化交流的な思いがあります。
文化交流は、今後の人生でもっとやっていきたい部分であり、それをカクテルに込めました。
このようにして、今回のカクテルでは「自分の人生の展開」を表現しました。
生産者、バーテンダー、飲み手からなる「グローバルコミュニティ」
– 素材を決めるのはもちろん、それをカクテルにするのは大変だったのでは?
中村:人生の展開といえ、素材一つずつに味があるので、人生の展開と味を一つにまとめるのは大変でした。
人生の展開だけを言葉にするのは簡単だし、味だけまとめるのも難しくはないけれど、それらをどうカクテルとして結びつけるかとか、パトロンを今以上にさらに美味しくするという点では苦労しました。
– どのような経緯でそうしたカクテルは誕生したのですか?
中村:パトロンのボトルに記された手書きの署名を見て「これをカクテルで表現できたら面白いな」というところからまずスタートしました。
署名をカクテルで表現するという、あまり容易ではないことを実現させるため、とにかく自分の発想を止めないようにしました。
まず、「お客様とのコミュニケーション」もコンペの評価対象になっていたこともあり、やっぱりお客様に書いてもらいたいと考えました。
そこで思いついたのが、パトロンの「グローバルコミュニティ」というキーワードです。これは(テキーラ造りの)職人とバーテンダーとお客様の三者を指します。その三者のサインが一つの器に集まればグローバルコミュニティを表現できると思いました。
このように「署名のカクテル」を突き詰めていったら、今回のカクテルができました。