造り手に聞く – 焼酎の名門が尾鈴山蒸留所で始めたウイスキー造りとは

焼酎の名門「尾鈴山蒸留所」がウイスキー造りを開始!造り手にインタビュー

黒木本店といえば「百年の孤独」や「㐂六(きろく)」などを手がける宮崎屈指の焼酎の造り手。別屋の尾鈴山蒸留所では「山ねこ」などのを手がけることでも知られ、それぞれが高い人気と知名度を誇ります。
そんな焼酎の名門がこの度なんと、ウイスキー造りをスタート!
その製造が行われる尾鈴山蒸留所を訪ね、開発を指揮する蔵元の黒木信作さんに詳しくお話を伺いました。

【黒木信作さんプロフィール】
黒木本店・代表取締役社長。1988年宮崎県生まれ。大学卒業後、かねて興味があったワインや西洋の文化を学ぶべくフランスへ留学。そこで土地や風土に寄り添いながら造られるお酒の魅力に触れ、家業の焼酎造りに取り組むことを決意。現在は黒木本店の5代目、尾鈴山蒸留所の2代目として、農業から一貫したお酒造りを行いながら、イベントなどにも数多く登壇し、焼酎の魅力を世に向けて発信しています。

黒木信作さん

自然と向き合うのが好きだという黒木さん。「サーフィンは自然と向き合いリラックスにもなるので好きですね。仕事に繋がる部分も多い食べ歩きや、写真を撮るのも好きです。休みがあればサウナにいきたくなります。心も体もととのいますしね」

【尾鈴山蒸留所プロフィール】
黒木本店の別屋として1998年に新設。本店から車で30分弱、宮崎県児湯郡の名山・尾鈴山を登った先にある、深い森に囲まれた景観の美しい蒸留所です。
黒木本店の農業法人「甦る大地の会」にて栽培された原料を中心に使用し、第二の原料とも呼べる水は、すぐ近くを流れる小川の上質な軟水を使用。発酵の際は、自家培養の酵母を使い分け、二次発酵には今は珍しい木桶の発酵槽を用いて微生物の力も借りながら醸されています。
また、本店同様に、蒸溜廃液は有機肥料としてリサイクルさせるなど「自然循環農法」にて、自然に寄り添いながら人の手で手間をかけながら焼酎造りが行われています。

尾鈴山蒸留所

人里離れた森の中に突然現れる尾鈴山蒸留所。黒を基調としたモダンな外観が美しい

なぜウイスキー造りを?尾鈴山蒸留所・蔵元インタビュー

– 早速ですが、焼酎の名門として名を馳せる黒木本店(尾鈴山蒸留所)がなぜウイスキー造りを始めることになったのでしょうか?
黒木(敬称略):実はウイスキーを造ることが目的ではありませんでした。この土地で私たちにしかできない焼酎を造ろうと日々努力を続けてきた志をもとに始まり、焼酎の伝統技術とウイスキーがつながることで、得るものがあるのではないかと考えました。
そもそも焼酎とは、日本で培われた発酵技術と、海外から伝来した蒸留技術が出会うことで生まれ、この土地で独自に発展してきたものです。
原材料の芋、麦、米も元を辿れば海を越えて伝わってきました。長い歴史を経て知名度や人気が少しずつ高まった現在ですが、今が完成形であるとは考えていません。
これからも歴史から学び続け、時代や環境の変化とともに挑戦し変化し続けることで、変わらぬ本質が生まれてくるのではないかと信じています。
発芽した穀物を原料に長期熟成させたウイスキーも海外から伝来したものですが、私たちの伝統技術とつながることで、この土地から生まれる新しい蒸留酒として育てていけるのではないかと考えています。

黒木本店(尾鈴山蒸留所)のウイスキー造りに使う大麦麦芽

黒木本店は原料の自社栽培にこだわる、ウイスキー造りに用いられるのも地元宮崎の大麦のみ

尾鈴山蒸留所の水源

尾鈴山蒸留所の水源となる近くの小川、良質な軟水だという

– 国産ウイスキーは原料となる麦は輸入に頼ることがほとんどですが、尾鈴山蒸留所では焼酎同様に自社栽培のものも含め地元宮崎の麦のみを使用し、自社で製麦するそうですね。その他にも、何か変わった製法を採用しているのでしょうか?
黒木:この土地で麦の栽培から麦芽づくりまで手仕事で行っています。発酵は地元産の杉の木桶で行い、蒸留には銅窯だけでなく直接蒸気を吹き込めるステンレスの窯も使用して原酒に複雑味を持たせています。また、地元産の杉や桜、栗などオーク以外の樽も使用するなど熟成にも力を入れています。
そうした宮崎の自然が育んだ純国産のウイスキーを造っていきます。

– どのようなウイスキーを造りたいですか?
黒木:この豊かな故郷の土地の力を感じさせるウイスキー造りを心がけています。ピートに頼らず麹や地元の木を用いることで、独自の風味をつけて醸していくなど独自性を強めていきたいです。
他のウイスキーをリスペクトしながらも、同じことをするのではなく、私たちがこれまで大事にしてきた哲学のもと、私たちだからこそできるウイスキー造りに励んでいきます。

尾鈴山蒸留所のウイスキー用の蒸溜器

蒸溜にはこの度新たに導入した三宅製作所の国産蒸溜器の他、モロミに直接蒸気を送り込むことで加熱する焼酎の伝統的な蒸溜器も合わせて使用するのだとか

尾鈴山蒸留所の蒸溜器

新たに導入した蒸溜器は2器、こちらの蒸溜器も三宅製作所製、ジンなどに使用するという

尾鈴山蒸留所の木桶の発酵槽

地元の杉を使った木桶の発酵槽

– 黒木本店では、ウイスキーのように樽で長期熟成された麦焼酎「百年の孤独」を手がけていますよね。原料や製法の他、アルコール度数や味わいなどウイスキーに似ているともされていますが、黒木さん自身は新たに手がけるウイスキーはこれとどう違うと捉えていますか?
黒木:百年の孤独がウイスキー的な視点を取り入れた焼酎であるとすれば、尾鈴山のウイスキーは焼酎的な視点を取り入れたウイスキーです。似て非なる新しいものになるでしょうね。

– ウイスキーを通して伝えたいことや願いなどあるのでしょうか?
黒木:この土地で挑戦し続ける私たちの姿勢や思いが飲む方にも伝わり、ウイスキーを通してより多くの人が希望や喜びに満ち溢れ、豊かな活力に満ちた時間を過ごしていただきたいです。この思いが世界に届くと嬉しいですね。

– いつ頃に製品はリリースする予定でしょうか?今後の展望などお聞かせください。
黒木:今は造りと熟成の最中です。
今後は2020年春ごろにまずはウイスキーのニューポットのリリースを予定しています。その他、ジンのリリースも予定していますので、お楽しみになさってください。

黒木信作さん

黒木さんは、いち飲み手としてもお酒が好きだという、「食事の際は圧倒的に焼酎を飲むことが多いですが、ワインや清酒、カクテルなどできるだけ様々なお酒を飲むようにしています。純粋にお酒が好きな自分に戻れる瞬間でもありますね」

黒木本店が管理・栽培している芋畑

黒木本店が管理・栽培している芋畑

– 最後にお聞きしますが、黒木さんにとって“酒造りとは何”ですか?
黒木:農業から粕の処理まで行っている私たちの酒造りは、「自然との対話」だと思っています。そこから感じたことを通して、原材料だけでなく私たちの心も醸すということですね。
そんな酒は人と人を結び、心をほどき、人生を豊かにしてくれる。そう信じています。

– インタビューへのご協力、ありがとうございました!

独自の哲学から生まれる新たな“純国産”ウイスキー

黒木本店同様に、お酒造りの根幹である農業にこだわり、「自然循環農法」にて自然に寄り添いながら焼酎造りを続ける尾鈴山蒸留所。
深い森の中に佇む蒸留所で造られるウイスキーは、自社栽培の大麦を用いながら、新たに導入したウイスキーの設備だけでなく、焼酎造りの技術も融合させる、という全く新しい純国産、ひいては宮崎産のウイスキーとなりそうです。

「私たちの酒造りは、自然との対話」と語る黒木さんが主導する尾鈴山蒸留所のウイスキー造り。
一体どのようなウイスキーとなるのでしょうか?
今後に期待です。

著者:小針 真悟

[LiquorPage運営責任者] お酒の現場を7年経験したのちに独立。お酒の魅力を多くの人に知ってもらうべく、2016年11月に「LiquorPage」の運営を開始。 洋酒から和酒まで幅広い知見をベースに、様々な酒類専門メディアの執筆・編集のほか、酒類イベントの企画運営やWEB制作、プロモーション業にも携わる。写真撮影も行うなど、お酒を通じた様々な制作業を一人でこなす。(ただの酒好き)

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