今や100前後のブランドが流通する国産クラフトジンの市場において、発売から1年足らずで品切れが続出するほどの人気を得たブランドがあります。
その名も「YASO GIN(ヤソジン)」
健康食品を軸としたメーカー・越後薬草(新潟・上越市)が2020年2月にリリースしたクラフトジンです。
薬草使いのプロが手がけるジンは、80種類の薬草由来のスピリッツをベースに51種類のボタニカルを使っており、それらが複雑に香る唯一無二のフレーバーが好評を博しています。
今回はその「YASO GIN」を手がける越後薬草を訪問し、社長の塚田和志さんにインタビューを実施。
そもそもなぜ健康食品メーカーがジンを手がけることになったのか、など「YASO GIN」誕生までのストーリーやこだわり、今後の展望などを聞きました。
「私たちにとってアルコールは副産物だった」…健康食品メーカーがジンを手がけることになったワケ
— まずは越後薬草がどのような会社なのか、教えていただけますか?
酵素商品を主力事業とする会社です。
上越市は全国有数のヨモギの産地で、それを使った健康食品を作ろうと、私の父が1976年に創業しました。
酵素商品には、基本的に80種類の薬草を使っているのですが、その中で最も多用しているのがヨモギです。
それらの素材は、大きな鍋で煎じ、その液体を甕(かめ)に移し、1年かけて微生物を増やしながら発酵・熟成させ、再び鍋で熱して酵素を凝縮させたものを商品化しています。
— なぜいきなりお酒造りを始めることになったのでしょうか?
偶然のできごとがキッカケでして…
80種類の薬草は、発酵させるわけですからアルコールが生成されています。
とはいえ、当社ではアルコールは副産物に過ぎず、それを熱で揮発させながら酵素を凝縮させていました。
その工程がかなり時間と手間がかかっていたため、効率化させようと、父が濃縮装置として蒸溜器を導入したんです。
お酒の業界では、蒸溜器はアルコールを精製し取り出すために使われていますが、私たちはあくまで原料を凝縮させるため、つまりアルコールが取り出された蒸溜器内部の残渣物(残ったもの)に目的があった…だから弊社では、多くの社員がいまだに濃縮装置と呼んでるんですよ。
しかし、蒸溜器をいざ動かしてみると、当然ながら高濃度のアルコールが副産物として生まれるわけで…その処理について税務署に相談したところ、スピリッツの製造にあたるとのことで、その製造免許を取らなければいけなくなりました。
そうして急いで免許を取ろうとしている最中、父が亡くなってしまったんです。
急なことでしたが、免許を取らないことには本業ができませんし、会社は私が継ぎ、免許取得のために必要不可欠なアドバイザーを探すこととなりました。
とはいえ、酒類業界にコミュニティがあるわけもなく、当初は全く見向きもしてもらえませんでした。
そんな中、ありがたいことに熊本の高田酒造場さま(「jin jin GIN」などジンも手がける焼酎の造り手)がアドバイザーを引き受けてくださり、なんとかスピリッツ免許を取得できました。
— それでお酒造りを始めることになったんですね
はい。
ですが、当初は自社でお酒を販売しようとは考えておらず、他社さまに使っていただこうと考えていました。
しかし、ヨモギ中心の80種類のハーブスピリッツは世の中にないものでしたし、特徴的すぎてどこも扱っていただけませんでした。
3ヶ月間で何社も提案したなかで、最後と決めて訪問した企業からの帰りの車中、全く手応えがなく「ダメだろうね」と社員と話していたのですが、なぜかふと亡き父の顔が浮かび「自分たちで売れ」と言われているような気がしたんです。
「そうか、納得がいくお酒に仕上げて自分たちで販売すれば良いのか」と、その車中で決意し、2019年の秋ごろに、自社の酒類ブランドの立ち上げと販売に向けて動き出しました。
このように、お酒の事業は実はネガティブスタートだったんです。
良くも悪くも“記憶に残るジン”を…「YASO GIN」にこめた思い
— ではなぜジンを造ろうと決めたのでしょうか?
80種類のハーブ由来のスピリッツを使って、何が造れるのかリサーチしている中で、4大スピリッツの一つとしてジンがあることを知りました。
ジンを選んだのは…私が好きな某探偵アニメにスピリッツの名前がついたキャラクターが登場するんですが、その中で一番強いキャラがジンだったんです(笑)
ほぼ直感でジンを造ろうと決めたんですよ。
— かなり意外な理由ですね(笑)
「恥ずかしいからあまり言わないでほしい」と社員から言われています(笑)
ただ、ジンを造ると決めたものの、知識がなかったので、造ると決めた翌日にはまずは新潟の酒屋さんを訪ね、ジンについて教えていただきました。
その特徴を聞いてみると、薬草やボタニカルが軸となっていることなど当社と重なりましたし、偶然にも注目の真っ只中にあるお酒だったらしく、ジンを造ると決めてよかったと思いました。
— どのようなジンを目指して開発を進めたのですか?
良くも悪くも「記憶に残るジン」を造ろうと思いました。
ベースとなるスピリッツが独特なので賛否両論になるのはわかっていましたし、飲み手の方の記憶に残らないことには、個性的なブランドがあふれるジンの市場で生き残るのは厳しいと感じましたから。
恥ずかしながら私はジン&トニックすら飲んだことがなかったんですが、造ると決めたことでかなり興味が湧きまして、色々と調べながら実際に400種類ぐらいのジンを飲んでみました。
当初はどういったジンにするべきか、フレーバーホイルに反映させて造ろうと思っていたのですが「記憶に残るジン」を造る上でその必要はないと気づき、やめました。
— 具体的にどのようなことを意識したのでしょうか?
特に意識したのは、若い方たちの選択肢になること。
そのために、経験が豊富な愛好家の方でなくてもキーとなるボタニカルの香りがわかるジン、いわばどんなジンなのか分かりやすいように設計しようと思いました。
— それで「YASO GIN」が誕生したのですね
イメージしたのは植物とアートです。
アート的な考えから、ベースとなる80種類の薬草を表現するべく80本の線をボトルに描き、全ての素材が主原料であり、全てのエッセンスが溶け込んでいること表しました。
ベースとなる素材が野草であることや「80=やそ」であることから「YASO GIN」と名付けました。