おそらく成人を迎えた方なら誰しもが一度は飲んだことがあるであろうビール。
それぐらい一般に浸透しているお酒でありますが、どういったお酒なのか、どのように造られているのか、などの基礎知識はあまり知られていません。
そもそもそういった知識は、普通に飲む上では必要不可欠ではありませんし、知られていなくともおかしな話ではありません。
ただ、やはり知っていた方がよりビールを美味しく、そしてより楽しく飲めることは間違いないでしょう。
そこで本記事では、ビールの基礎知識を知ってもらうべく、どうやって造られているのか、つまりはビールの製造工程について、ざっくりと解説していきます。
「製造工程」と聞くと何やら難しそうですが、なるべく簡単に解説していきますのでご安心を。
それでは見ていきましょう。
ビールの製造工程をまずはざっくりご紹介
まずはざっくりと、ビールがどのような工程で造られているのかご紹介。
その後各項目を詳しく解説していきます。
【ビールの製造工程】
- 製麦(麦芽作り)
- 仕込み(糖化・麦汁)
- 発酵・貯酒
- ろ過
- パッケージング(瓶or缶or樽詰め)
このように、ウイスキーのように蒸留をさせず、発酵させただけのお酒であるビールはわりとシンプルな製造工程になります。
ちょっとややこしいのは仕込みの工程ぐらいでしょうか。
次項から各工程の解説をしていきます。
製麦工程 〜 大麦を発芽させ麦芽を作る
ビールの主原料が「大麦麦芽」だというのはよく知られた話。
なぜそのままの大麦ではなく、わざわざ発芽させた麦芽にしなければならないのか?
そう疑問に思う方もいると思います。
それは、発酵させやすい状態にするため。
発酵させることによって、アルコールが生まれるのですが、この発酵には「酵母と糖分」が欠かせません。
酵母は添加するので良いとして、糖分は原料に含まれていなければなりません。
しかし、穀物である大麦の主成分は、糖分ではなくご存知「デンプン」です。
ただ幸いなことに、デンプンは自らの酵素の力でデンプンを糖分に変えることができます。
その酵素が働きやすい状態が、大麦がほんのちょっと芽を出した状態、つまり「大麦麦芽」なのです。
By Peter Schill – Self-photographed, CC BY-SA 2.0 de, Link
製麦の流れ
さて、肝心の製麦の流れですが…
その工程は【浸麦】→【発芽】→【焙燥(乾燥)】→【除根】といった流れで行われます。
まず、水に浸し[浸麦]、それによって[発芽]させます。
次に麦の成長を止めるために、熱風を浴びせて[焙燥]、要するに乾燥させます。
ちなみに、黒ビールなどの色が濃い濃色ビールを造る場合、この焙燥工程をより高温で入念に行われます。(これをロースト(焙煎)という)
最後に、芽は不快な苦味成分の元となるため、取り除かれます[除根]。
これで製麦工程は完了です。
仕込み 〜 麦芽を糖化し麦汁(麦のジュース)を作り、ホップを加える
製麦を終えた麦は、適度に細く粉砕されます。
粉砕された麦芽は、仕込槽と呼ばれる大きな釜に温水とともに入れられ、ドロドロしたおかゆ状の「マイシェ」と呼ばれるものに変化。
このマイシェを攪拌しながら温度を上げていくことで、デンプンやタンパク質が分解され、だんだんと液状になってきます。
By epicbeer|Mashing In, CC BY 2.0
分解においては、デンプンは前述のように糖分に変わるのですが、たんぱく質はアミノ酸へと変わります。
これは酵母の栄養となり、香りや味を作る上で重要な成分。
こうして分解を終えたマイシェは、ろ過槽に移され、ろ過を行い「麦汁」と呼ばれる麦のジュースになります。
さて、こうして発酵に適した状態の麦汁となったわけですが、この次に、仕込み工程の最後、ビール造りで重要な「ホップの添加」を行います。
ホップを添加し、麦汁を煮沸
麦汁は煮沸釜に移され、ビールの香味を担う重要な原料「ホップ」を加えて煮沸します。
ここで、煮沸し、ホップを加える目的についても見ておきましょう。
【煮沸の目的】
加熱することで麦汁内の分解を完全に止め、なおかつ殺菌し、好ましくない香りを飛ばす。
【ホップを加える目的】
ビールに独特の香りと苦味を与え、泡立ちを向上させる。
実はビールの独特の香りや、あの苦味はホップによるもの。
このホップの種類を変えるだけでも、ビールの味わいはまるで違うものへと変わります。
⇒アロマホップなど、ビール用ホップの主な3種の特徴まとめ
煮沸しホップがその役割を果たした後は、この麦汁を冷却し、仕込の工程は終了です。
そしていよいよ「発酵」の工程。つまりお酒へと変わる瞬間です。
発酵・貯酒 〜 アルコール発酵させ麦汁をビールへと変える
発酵とは、酵母の働きによってアルコールと炭酸ガスを作り出すこと。
要するに、麦のジュースに過ぎなかった麦汁をビールへと変える工程です。
ほとんどのビール造りにおいては、ビール酵母と呼ばれるビールに適した酵母を添加し、その酵母が糖分をエサに、アルコールと炭酸ガスを生成します。
なおビール造りでの発酵は、主発酵と後発酵(熟成・貯酒)の2回に分けて行われます。
それぞれ見ていきましょう。
主発酵(1回目)
冷却された麦汁は発酵タンクに移され、これに酵母を加え発酵させます。
酵母は自らを増殖させながら発酵していくのですが、添加されて3日目ぐらいが最も旺盛になるとされています。
発酵は主に、多くの大手ビールが採用している下面発酵(ラガー)と、クラフトビールなどでよく見られる上面発酵(エール)に分けられ、下面発酵で発酵期間が1週間〜10日前後、上面発酵ではそれより短い3〜5日前後発酵を行います。
By Kafziel at the English language Wikipedia, CC BY-SA 3.0, Link
こうして1回目の主発酵で出来たビールは「若ビール」と呼ばれ、まだ味が粗く未熟なため、2回目の発酵を行い熟成されます。
後発酵(熟成・貯酒)
若ビールは2回目の発酵を行うため、後発酵タンクに移されます。
後発酵とはいうものの、1回目の主発酵のほどの発酵ではなく、若ビールの熟成と炭酸ガスの溶解が主な役割。
つまり、後発酵=熟成・貯酒でもあるわけです。
後発酵(貯酒)の期間は、下面発酵ビールの場合、約1ヶ月。上面発酵ビールの場合それより短くなります。
ちなみにウイスキーのように熟成期間が長いほど良いということはなく、ビールの貯酒は適度な期間を超えると逆に悪影響を招きます。
こうして熟成・貯酒を終えたビールはろ過され、いよいよ完成します。
ろ過・パッケージング 〜 ビールの完成
ろ過は、貯酒を終えたビールから酵母などの固形物を取り除き、澄んだ色合いのビールにするために行われます。
役目を終えた酵母を死滅させ取り除く手段として、加熱殺菌も行われることもありますが、現在はろ過技術が進み、加熱殺菌せずにろ過だけで済むようになっています。
ちなみに、加熱殺菌をしないビールを「生ビール」と呼び、現在はこの生ビールが主流となっています。
ろ過は特殊なフィルターを用いて行われ、この時点でビール自体は完成しています。
最後に、瓶なり缶なりに詰め、流通可能な状態にするパッケージングを行い、ビールの製造工程は終了です。
まとめ
以上、ここまでビールの製造工程について解説してきました。
ビールは蒸留がない分、ウイスキーや焼酎などより造り方がシンプルです。
これらの工程をなんとなくでも覚えておくと、今後ビール銘柄の解説などがすんなり理解できるようになります。
また、ビールの選び方が変わるかもしれませんし、味わい方も変わることでしょう。
つまりは、ビールが今まで以上に楽しくなるということです。
それではこの辺で。
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