その土地でお酒を造る意義とは?
今や日本の各地でもクラフトジンとも呼ばれるジンが盛んに造られていますが、その答えを明確にしている広島のジンがあります。
広島駅の改札を出るとすぐデジタルサイネージに映し出される、鮮やかな桜模様と色合い異なる2本のジンボトル。そのジンとは、広島を代表する酒造メーカー・中国醸造が手がける「SAKURAO GIN / 桜尾ジン」です。
今回は、世界遺産・厳島神社の在る廿日市に拠点を置く同社を訪問し、ジンの開発を主導した山本泰平さんをインタビュー。
SAKURAO GIN誕生までのストーリーや独自の取り組みなどを聞いてみました。
「広島のものを使わないと弊社で造る意味がない」
– まずは山本さんの今に至るまでを含め、自己紹介をお願いしても良いですか?
山本さん(以下、敬称略):1998年に新卒で中国醸造に入社しまして、商品開発室に配属になりそこから開発一筋、現在は開発主任を務めています。
元々は清酒など醸造酒中心だったんですが、途中からリキュールであったり、2001〜2年からは本格焼酎の立ち上げに取り掛かり…そのあとは「もみじ饅頭のお酒」など特殊なリキュールの開発が中心となりました。
今のジンやウイスキーもそうですけど、何か新規で立ち上げるとか、そういったところには携わってきましたね。
– それでは早速ですが、中国醸造はなぜジンを造ることになったのでしょうか?
山本:お客様から「香料を使わずに果実の風味が出たお酒を出せないか」という声をいただいていたこともあり、そうしたスピリッツを造ろうとしていたところ、2014年に今ジンに使用している「ホルスタイン(ドイツの有名な蒸溜器メーカー)」の方が突然セールスにきまして、試しにサンプルのお酒を造ってもらったのですが、香りが断然良いものが送られてきたんですよ。
ちょうどそれと同時期、2018年の弊社創業100周年に向けた新しいスタートととして「洋酒に本格的に挑戦しよう」という案がありました。
考えた末に実際にホルスタイン社のドイツの工場まで赴き、蒸溜器の導入を決め、イチから洋酒造りに挑戦することになりました。
その頃、世界に目を向けると(基本的に香料は使わない)ジンが面白いことになっていたんですね。「弊社なら広島の素材を活かしたジンが造れるのではないか」となり、2015年にSAKURAOのプロジェクトが始まりました。
– どのようなタイプのジンを目指して、開発を進めていったのですか?
山本:当初からあったのは、ジンの王道であるロンドンドライジンタイプのもので、色々と世界のジンを試飲や分析をしながらたどり着いたのが、柑橘がよく感じられるタイプのジンです。
元々広島は柑橘が有名で、弊社ではリキュールに用いていたためデータがありましたし、広島の気候や風土は知ってますから、それらを活かしたジンの開発を進めました。広島のものを使わないと弊社で造る意味がないので、最初から広島産ボタニカルにはこだわっていましたね。
それともう一つ、「ジン&トニックにして美味しいジン」を目指しました。
「広島は海だけでなく山や豪雪地帯もある…だから色々なボタニカルが採れる」
– SAKURAOには「ORIGINAL」と「LIMITED」の2種がありますが、これらは最初から開発が決まっていたのですか?
山本:最初から2本立てでした。
広島産のボタニカルだけを使ったフラッグシップとなるLIMITEDと、国産のクラフトジンは値段が高いものが多かったので、広島の素材も活かしながらも「お客様に手にとってもらいやすい価格のもの」としてORIGINALの開発を進めました。
– 広島産のボタニカルはどのようなプロセスで決まっていったのでしょうか?
山本:最初から柑橘は意識してましたけど、ヒノキや緑茶など他の部分に関しては、県内で何が採れるか探すことから始まりました。
広島って海のイメージが強いかもしれませんが、山もあって、なかには豪雪地帯もあって、そうした気候と風土だからこそ、色々なボタニカルが採れるんですよ。
それであちこち回りながら、農家さんに「ジンに使いたいのでお話がしたいです」と…まあ最初は「え?(どういうこと?)」みたいな反応をいただくことがほとんどでしたけど、それを繰り返していくうちに「それなら〇〇はどうですか?」と、素材そのものや農家さんを紹介いただけるようになりました。
そういった地道なやりとりを続けて、色々な素材を仕入れて集めては試験蒸溜を繰り返しました。
– たしか「LIMITED」は、ジンでは前例のない日本(広島産)のジュニパーを使用していますよね?
山本:ある日、広島県の林業技術センターから「広島でジュニパーが採れますよ」と連絡をいただいたんですよ。
採れる場所が限定され収穫できる量も少なかったのですが、「それなら全て広島産のボタニカルでいけるじゃないか」と使用を決めました。
収穫には私たちも参加するんですが、収穫時期が1〜3月という寒い時期で、木に脚立をかけながら小さな実を手で一つずつ、熟したものだけを採るんですよ。ジュニパーは全部いっぺんに熟すわけではないので、寒い中の高所作業で選別が大変でした。
– 結局、開発にはどれぐらいの期間費やしたのでしょうか?
山本:2015年から開発を始めて、丸2年以上かかりましたね。
ようやく揃ったボタニカルについても、私たちは(ロンドンドライジンの伝統製法である)ワンバッチ、つまり一度にまとめてボタニカルを蒸溜することにこだわったのですが、できたものを今度は成分分析にかけ、世界のジンと比較しながら目指すべくジンになっているか照らし合わせる。そうしたことを繰り返して、2018年3月に発売に至りました。