日本酒に使われる「醸造アルコール」の正体とは?

醸造アルコール・その正体を知る

純米酒と吟醸酒の違いは、原料がお米だけか、そうじゃないか。
そう把握している方も少なくないでしょう。

その違いを分けるお米以外の原料こそが、今回のテーマである「醸造アルコール」です。
醸造アルコールを加えた日本酒は、界隈では「アル添酒」などとも言われますが、実はその正体についてはあまり知られていません。

「醸造アルコール」だけでは、かなり含みを持つワードだけに原料が何なのか、どういったものなのか想像もできません。
それもあってか、なかには「正体不明の謎の材料」というネガティブなイメージを持つ方もおり、悪いものとも捉えられがちです。

そこで本記事ではこの正体不明の材料について知っていただくために、醸造アルコールは一体何が原料でどんなものなのか詳しく解説していきます。
実は、決してネガティブな材料ではありません。

醸造アルコールの正体

醸造アルコールとは、簡単にいうと甲類焼酎のようなもの
詳しく見てみましょう。

国税庁の「酒のしおり」によれば、その原料はでんぷん質物や含糖質物とされています。これだけではさっぱり分かりませんが、そのほとんどはサトウキビによる廃糖蜜とされており、要するにサトウキビの搾りかすが醸造アルコールの原料となっているということです。

サトウキビ

多くの場合、サトウキビの搾りかすが原料となる。

それを発酵させ、連続的に蒸留することでアルコール度数を95度前後までに高めたものが醸造アルコールです。
度数からしてほぼ純正アルコールのようなもので、基本的には無味無臭となっています。
何より95度前後という度数にびっくりしたかもしれませんが、日本酒に使用する際は水で薄めてから使用するので、度数がやたら高くなるということはありません。

日本酒ではこれを「醸造アルコール」と言いますが、他の酒類では「ニュートラルスピリッツ」などとも言われます。
ちなみに、これを加水し薄めたものがいわゆる甲類焼酎であるため、醸造アルコールとは焼酎のようなものと捉えて良いでしょう。(実は他のお酒でも重宝されている)

“純米”以外の日本酒だけに醸造アルコールが使用される

さて、この醸造アルコールですが、何も全ての日本酒に使用されるわけではなく、冒頭で述べてように純米酒以外の日本酒にしか使用されません
要するに大吟醸や本醸造、普通酒には使用されますが、純米大吟醸や純米には使用されないということです。

特定名称 醸造アルコールの使用有無
普通酒
本醸造
特別本醸造
純米 ×
吟醸
純米吟醸 ×
大吟醸
純米大吟醸 ×

安価な日本酒に使用されているとイメージしている方もいるかもしれませんが、このように一覧で見てみると、大吟醸など高級な日本酒でも使用されていることが分かります。
ただし、そういったお酒ではその使用量は厳しく制限されています。

本醸造や吟醸に使用可能な量は10%以下

本醸造や特別本醸造、吟醸、大吟醸では、使用できる醸造アルコールの量は白米重量の10%以下に制限されています。
つまり、多くの日本酒では少量しか使用されていないということ。

とはいえ、そもそもなぜ醸造アルコールを使用するのでしょうか?
気になるところですが、その目的について次項で解説します。

醸造アルコールを使用する理由は増量ではない?

大吟醸など高級酒にも使用される醸造アルコールですが、使用目的はいくつかあります。

  • 香りを立たせる
  • 品質を安定させる
  • 味をスッキリさせる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

香りを立たせる

醸造アルコールを加えることで、香味成分が日本酒の中にとどまり、結果としてより香りが立つお酒になるとされています。
そのため、鑑評会に出品するような高級な大吟醸酒などにも醸造アルコールが使用されているのです。

一般的に純米大吟醸より大吟醸の方が香りが華やかなのは、この醸造アルコールあってのものと言っても良いでしょう。

味をスッキリさせる

醸造アルコールは香りだけでなく、味わいにも影響をもたらし、一般的に味をスッキリさせるとされています。
そのため淡麗辛口の日本酒になりやすく、同様の日本酒を好む方に本醸造や、意外にも普通酒などのウケが良いのはそのためかもしれません。

品質を安定させる

醸造アルコールを加えることで、品質を保つ効果も見込めるようです。
日本酒の香味を劣化させる原因となる乳酸菌が増えるのを防止する効果があるとされています。

普通酒など安価な日本酒では「増量」も狙って醸造アルコールを使用しているかもしれませんが、実はこのように、私たち飲み手にとってもポジティブな効果があるのです。

まとめ

ここまで日本酒の醸造アルコールの正体と、その使用目的について解説してきました。

最後にざっくりまとめると…

  • 醸造アルコールの正体は焼酎のようなもの。
  • 原料はサトウキビの搾りかすで、発酵・蒸留させたもの。
  • 「純米」以外の日本酒に使用される。
  • 香りを立たせ、味をスッキリさせる効果がある。

醸造アルコールについては、「正体不明の材料」とネガティブに捉えてしまう方も少なくないですが、実は身近なものが原料となっており、しっかりとした目的があって使用されているということが分かりました。
飲み手にもポジティブな効果をもたらし、しかも日本酒以外のお酒でも重宝されているものなのです。

醸造アルコールについて分かったことによって、今まで以上に本醸造や大吟醸といったお酒を美味しく飲めるかもしれません。
それではこの辺で。

【参考文献】
酒のしおり|国税庁
日本酒でも偽装 醸造アルコールとは何か|NIKKEI STYLE

著者:小針 真悟

[LiquorPage運営責任者] お酒の現場を7年経験したのちに独立。お酒の魅力を多くの人に知ってもらうべく、2016年11月に「LiquorPage」の運営を開始。 洋酒から和酒まで幅広い知見をベースに、様々な酒類専門メディアの執筆・編集のほか、酒類イベントの企画運営やWEB制作、プロモーション業にも携わる。写真撮影も行うなど、お酒を通じた様々な制作業を一人でこなす。(ただの酒好き)

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