銘柄ごとの個性がはっきりしていて、味わいも様々なのがシングルモルトの良いところ。
その中には、超個性的な味わいながらも熱狂的ファンが多い、とある地方で作られるシングルモルトがあります。
アイラモルトはみなさんご存知でしょうか?
このアイラモルトはシングルモルトを覚える上では欠かせないアイラ島で作られるシングルモルト。
本記事ではアイラモルトについて、入門編としてウイスキー初心者の方でもわかりやすいよう簡単に解説していきます。
記事後半ではアイラモルト全銘柄を簡単にご紹介します。
アイラモルトとは?
アイラモルトとは、スコットランド・アイラ島で作られるシングルモルト・ウイスキーを言います。
日本でも有名なラフロイグやボウモア、アードベッグなどがこれにあたります。
しかし現在操業中の蒸留所は8つしかなく、銘柄数にしても10程度しかありません。
「潮っぽいの香り」「スモーキー」「薬品のようなヨード臭」と例えられるように、他に類を見ないとても個性的な味わいで、好き嫌いは分かれますが熱狂的なファンが多いのが特徴です。
その味わいからブレンデッド・スコッチを作る上では欠かせない原酒となっており、ウイスキーコニサー資格教本によれば「有名なブレンデッド・スコッチでアイラモルトが入っていないウイスキーはないといってよい」とあります。
実際、日本でも有名なジョニーウォカーやバランタインにもアイラモルトが原酒として使用されています。
⇒ブレンデッド・ウイスキーとシングルモルトの違いを簡単解説!
アイラ島とはどんなところ?
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アイラモルトの産地・アイラ島はスコットランドの西側に位置する島で、その大きさは日本の淡路島より一回り大きい程度です。
ただし人口は約3,400人ととても少なく、ウイスキーの生産が島の重要な産業となっています。
アイラ島は、この周辺地域では比較的温暖な気候で、原料となる大麦がよく育ち、さらに良質の水に恵まれていることからウイスキーづくりに適しているとされています。
さらにアイラ島では、スコッチを作る上で欠かせない「ピート」と呼ばれる泥炭がよく採れ、これによってスコッチ独特のスモーキフレーバーが与えられています。
それから操業中の8つの蒸留所はほとんどが海辺にあり、これがアイラモルト独特の「潮っぽさ」に影響しているとされています。
そもそもピートとは?
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ピートとは、シダやコケ、草やヒースなどが堆積してできた泥炭(草炭)のことで、スコットランドでは暖房の燃料としても使われています。
スコッチでは麦芽の乾燥をさせる際に使用し、このピートを燃やしその熱気で麦芽を乾燥させます。
この時に出る燻煙を麦芽が吸収することによって、独特のスモーキーフレーバー、俗に言うウイスキー用語「ピート臭(ピーティともいう)」が与えられます。
基本的には、このピートを多く使用すればするほどスモーキーでピート臭が強いウイスキーとなります。
条件が揃わないと採れないピートですが、アイラ島では島の4分の1が厚いピート層に覆われていて確保に困らないため、アイラモルトではピートを多く使用します。
そのためアイラモルトには、強烈なスモーキーフレーバーやピート臭が与えられているわけです。
スコッチにおいても、現在は燃料としてではなく風味づけとして役割がほとんどであるため、ピートを使用しない銘柄はあります。
ピートについて詳しくはこちらで解説しています。
⇒ウイスキーでよくみる「ピート」とは一体何なのか?
アイラモルトの超個性的な味わいとは?
「愛せよ、さもなくば憎めよ」とは、有名なアイラモルトであるラフロイグの過去の宣伝文の一つとされているもの。
それくらい好き嫌いがはっきりするのがアイラモルトなのです。
その味わいは…
- 食毒液、正露丸のような薬品臭
- 煙を食べているのかのようにスモーキー
- 辛口で潮っぽい
などと例えられます。
あまりに強烈な味わいに最初は拒絶する方も多いです。(筆者もその一人でした)
しかし、あまりに強烈な味わいなため一度味わったらのその味を忘れず、なぜかいつの日かその味が恋しくなり、気づいた頃には熱狂的なファンになっている、そんな魔力を持ったモルトなのです。
もちろんアイラモルト全てがこの限りではありませんが、やはり傾向としてあるのは事実です。
アイラ島の蒸留所と銘柄
アイラ島にある全ての蒸留所とそこで作られるモルト銘柄について簡単にご紹介します。
アイラモルトは全銘柄でも10程度しかないので、ハイランドやスペイサイド地方のシングルモルトと比べて全銘柄制覇が容易にできます。
ラフロイグ
アイラモルトとしておそらく最も知名度が高いのがラフロイグです。
サントリー・グループがオーナーとして所有しているため、日本でもよく見かけることができます。
「アイラモルトの王」とも言われるラフロイグは、最もアイラモルトらしい特徴を持っていて、正露丸のような薬品臭、スモーキーで潮っぽい海草のような味わいです。
好き嫌いがはっきり分かれる銘柄ですが、世界的に評価が高く、英国王室御用達と認定された初のシングルモルトでもあります。
ボウモア
ラフロイグに続き日本でも有名なアイラモルトがボウモアです。
同じくサントリー・グループが所有しています。
こちらは「アイラモルトの女王」とも言われ、ラフロイグと比べると味わいは繊細で穏やかなので飲みやすく感じるかもしれません。
ボウモア蒸留所は港のすぐそばに位置しているため潮っぽい風味はありますが、甘さも感じることができ、とても複雑な味わいです。
アードベッグ
アードベッグはルイヴィトングループであるLVMHが所有するラグジュアリーな銘柄で、バランタインの原酒の一つとしても使用されています。
とりわけ多くのピートを使用するため、とにかくスモーキーフレーバーが強く、そのボトルデザインのように重厚でパワフルなモルトです。
焼けた草や土のような風味も感じ、アイラモルトの中でも特に主張が強いため熱烈なファンが多い銘柄でもあります。
中級者向けの銘柄です。
ブルイックラディ
ブルイックラディ蒸留所はアイラ島の蒸留所では唯一海沿いではない場所にあります。
アイラモルトの中ではライトな方で、塩っぽくスパイシーな風味がベースとなっています。
この蒸留所がユニークなのは、ピートの使用量を分けて全3銘柄生産しているところです。
ブルイックラディ
ピートレベルはやや低めなシリーズ。
他のアイラモルトのような薬品臭をあまり感じないので比較的飲みやすいのが特徴です。
ポートシャーロット
ピートレベルが高く、多くのピートを焚き込んだ麦芽を使用するシリーズ。
スモーキーフレーバーが強くスパイシーながらも少し甘みも感じるのが特徴です。
オクトモア
全シングルモルトのなかで最強のピートレベルを誇るのがこのシリーズです。
世界最強のスモーキーフレーバーでスパイシー、それでありながら複雑な味わいで完成度の高い銘柄です。
ブナハーブン
ブナハーブンはアイラモルトの中では最もライトなテイストとされています。
基本的にピートを使用しない、もしくは使用しても少量なため、アイラモルトとしての主張は控えめで、優しい口当たりが特徴です。
ブレンデッド・スコッチのカティサークやフェイマス・グラウスの原酒の一つとしても使用されています。
飲みやすいのでアイラモルト入門としておすすめの銘柄です。
ラガヴーリン
ラガヴーリンは、世界的な巨大蒸留酒メーカーであるディアジオ社が所有する銘柄です。
アードベッグと少し似た個性を持つパワフルな銘柄で、コク深く味がしっかりしている重量級のアイラモルトです。
潮っぽさ、スモーキーフレーバー、薬品臭、どれもがしっかり感じることができます。
ブレンデッド・スコッチのホワイトホースのキーモルト(主要な原酒)としても使用されています。
カリラ
カリラも、ラガヴーリン同様にディアジオ社が所有する銘柄で、同社の看板商品であるジョニーウォカーの原酒の一つです。
アードベッグやラガヴーリンなどと比較的ライトな酒質ながらも、辛口でスパイシー感の強い個性を持っています。
キルホーマン
キルホーマンは新しい蒸留所で、2005年にアイラ島では124年ぶりに新たに操業を開始しました。
アードベッグと同等程度のピートを使用し、強いスモーキーフレーバーながらも、ややライトでソフトな風味がベースとなっています。
年間生産量が約9万L(約1万ケース相当)と少量生産のアイラモルトです。
ポートエレン(操業停止)
ポートエレンは、1983年に操業を停止した蒸留所で、その建物は現在はモルトスター(麦芽生産業者)によって利用されています。
まだポートエレンの名がついたモルトが少しだけ残っていて、購入自体は可能ですがいずれも10万円以上ととても高価になっています。
まとめ
アイラモルトについての理解は深まりましたでしょうか?
最後にざっくりとまとめると…
- アイラ島の蒸留所で作られるシングルモルト
- ピートを多く使用することからスモーキーフレーバーが強い
- 海沿いで作られることから潮っぽい風味を感じる
- 銘柄によっては強烈な薬品臭がする
このように超個性派のシングルモルトです。
初心者ウケが悪く、好き嫌いがはっきり分かれるのがアイラモルト。
とはいえまずは、自分がどちら側なのか知るために一度試してみてください。
ちなみに筆者は最初はアイラモルトが苦手でしたが、いつの日かその味が恋しくなり、今ではもう大ファンであります。
みなさんもそうなるかもしれないですね。
それではこの辺で。
以上「シングルモルト入門!「アイラモルト」を簡単解説」でした。
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【参考文献】
ウイスキーコニサー資格認定試験教本・スコッチ文化研究所
モルトウイスキー・コンパニオン改訂版・小学館 著・マイケル・ジャクソン