ウイスキーに関連する本や記事を見ていると、よく「ピート」というワードが出てきます。
さも当たり前かのようにピートと書かれていること多いですが、ウイスキー初心者の方からすると「いやいや、そもそもピートって何?」と思うところ。
本記事ではそんな疑問、「そもそもピートとは一体何なのか?」そして「ウイスキーにとってどんな意味があるものなのか?」についてをわかりやすく解説していきます。
ウイスキーならではの難しい専門用語のようにも思えますが、実はそれほど難しいものではありません。
ちょうど先日、Tokyo Bar Show内で行われたピートに関するセミナーを受けて参りましたので、その内容も踏まえながらお送りしていきます。
それでは見ていきましょう。
ピートとは泥炭、つまり燃料の一種である
まず先に結論から言うと、ピートとは泥炭と呼ばれるもので、石炭などと同様に燃料となるものです。
By Giorgio Galeotti – Own work, CC BY 4.0, Link
そもそも泥炭とは何か?
これは実は石炭になりかけのもので、泥炭が長い年月をかけて石炭へと変化します。
泥炭はその名のとおり泥のようなもので、一見するとただの土ですが、可燃性があり燃料として使用することができます。
これは植物などが堆積していくことで作られ、実に3000年もの年月をかけて植物が泥炭に変わっていくのだとか。
ただもちろんピート(泥炭)は全ての土地でできるわけではなく、基本的には気温の低い湿地帯、例えば日本では北海道、そしてウイスキーの本場スコットランドではピートがかなり採れることで有名です。
スコットランドでは燃料として貴重だった
日本ではあまり馴染みのないピートですが、実はスコットランドの、特に北部では貴重な燃料源だったのだそうです。
それはスコットランドの北部ではあまり木材が豊富ではなかったから。
他の地域では木炭を燃料源として頼ることができても、スコットランド北部ではそれに頼ることができなかった、だからピートは貴重だったのですね。
実際スコットランドの一部地域では、ハイテク化した現代でも暖炉を使用する際にピートを用いることがあるのだとか。
でもそれがウイスキーと一体どういう関係があるのでしょうか?
ウイスキーとピートの関係性とは?
まず結論から言うと、ウイスキーにおけるピートの役割、それはウイスキーの原料・麦芽を乾燥させる際に使用します。
麦芽の乾燥に用いるとはどういうことか?
まず、ウイスキーの原料となる大麦はそのままではお酒の原料として使用できないため、水に浸して少しだけ発芽させます。(発芽させたものを麦芽という)
そうすることによって酵素が生成され、発酵しやすくなるのですね。
ただ、麦芽がいつまでも水分を含んだままでは芽が成長を続けてしまいます。
それに水分をわずかでも含んだ状態だと、保存性もよくありません。
それを防ぐために、ある程度発芽した麦芽に熱を当てることで乾燥させるのですね。
その乾燥の際に熱源となるのがピートなのです。
ピートを熱して、その際に上がる熱い燻煙を麦芽に当てることで乾燥させるという仕組みです。
こうすることで初めて、ウイスキーの原料として使用可能、かつ保存性にも優れた麦芽が完成します。
「でも熱源がわざわざピートである必要があるの?」
そう疑問に思った方もいるかもしれませんが、前述のようにウイスキーの本場スコットランドでは木材(つまり木炭)が少なかったのですね。
そのことが関係してウイスキーでもピートを用いるようになったそうです。
しかしハイテク化した今日では、あえてピートと使用するのはまた別な理由があるようです。
今ではピートはフレーバー付けの意味合いが強い
ハイテク化した今では、麦芽の乾燥にわざわざピートを使用する必要はありません。
他にももっと効率的に使用できる熱源はあります。
ではなぜあえてピートを使用するのか?
それはウイスキーに、ピート由来の独特のスモーキーフレーバーを与えるためです。
よく燻製料理のように「スモーキー、煙臭い」と言われるウイスキーがありますが、これはピート由来であることが多いです。
乾燥の際にピートをふんだんに使用することで、そういったフレーバーが与えられているということですね。
なので、ウイスキーにスモーキーフレーバーを与えたくない場合、ピートは使用しない、もしくはごくわずかしか使用しないなどの調整がなされます。
ピートの使用量によって、スモーキーなウイスキーか、クリアなウイスキーか調整されているとも考えられますね。(もちろん味わいは他の複雑な要因も重なり決まります)
ちなみに、そもそもスコットランド以外のウイスキーでは、ピートの使用は一般的ではありません。
スコットランドのウイスキーと似ているとされる、日本のウイスキーでは使用されることもあります。
「ピーティ」や「ピーテッドモルト」の意味
ウイスキーでは、ピートと似たワードで「ピーティ」や「ピーテッドモルト」なども目にします。
これらも実はピートに関連したワードですので、それぞれ説明しましょう。
まずピーティとは?
ピートがしっかり効いたスモーキーな香味・風味であること。なおかつ少し正露丸のような薬品臭も感じる独特の味わいのことをピーティと言います。
この説明だけだとおそらく良いイメージは湧かないと思いますが、これが不思議とクセになる味わいなのです。
ピーテッドモルトとは?
ピートをふんだんに使用した麦芽のこと。このピーテッドモルトを使用することで、基本的にはスモーキーでピーティなウイスキーになります。
ちなみにピーテッドモルトの対義語的な意味合いの「ノンピート」なるワードもあり、これはそのまま、ピートを全く使用しない麦芽のことを言います。
ピートの産地によってもフレーバーが違う
ピートは、そのピート自体が採れる場所によって、与えられるフレーバーも異なると言われています。
それも当然といえば当然で、そもそもピートは植物が堆積してできたもの。
産地によって当然多く分布する植物も違うので、ピートそのものの質が異なるというわけです。
さらに言うと、ピートが採れる場所が「海に近いかそうでないか」などでも質が変わると言われています。
(海に近い場所で採れるピートには、海の潮っぽさを感じるフレーバーがつくことが多い)
異なる質のピートを使用すれば、異なる質のフレーバーが与えられることはある意味当然です。
ピートは長く焚いたからといってスモーキーになるわけではない
ピートは長く焚くとよりスモーキーになると誤解されがちですが、それは違います。
なぜなら、麦芽がピートの煙を吸収するのは、麦芽乾燥のステップのごく初期段階のまだ麦芽が濡れているときだけだからです。
この濡れている状態でどれだけピートを焚くか、さらにはどの質のピートを使用するかによって、どれだけスモーキーなウイスキーになるかが決まります。
この辺りは職人さんたちが見極めながら行っています。
ピート要素が強いウイスキー銘柄
ピートについて理解できたところで、そのピート要素が強い、つまりピーティなウイスキーがどんなものなのか知りたいところ。
ここではピート要素が強いことで知られるウイスキー銘柄をいくつかご紹介します。
アードベッグ
アイラ島で作られるアードベッグは、数あるウイスキーの中ではとりわけピート要素が強いウイスキーとして知られています。
今回ご紹介するウイスキーの中でも最もピーティと言って良いでしょう。独特の薬品臭も感じ、とにかくスモーキー。
飲み口もヘビーでパワフルなウイスキーです。
ラフロイグ
アードベッグ同様にアイラ島で作られるウイスキーで、日本でも人気が高い銘柄です。
こちらもアードベッグ同様にピート要素はかなり強いのですが、酒質はやや軽めでワインで言うならミディアムボディ程度。
しかし、薬品臭はとりわけ強いことで知られるウイスキーです。
タリスカー
スカイ島で作られるタリスカーは、上記2銘柄同様に日本でもファンが多い銘柄です。
海を連想させる独特の風味でとりわけ潮っぽさが強いのが特徴。
よく「胡椒のようなスパイシーな味わい」とも例えられ、実際に黒胡椒を入れてソーダで割る「スパイシーハイボール」なる飲み方も人気をはくしています。
余市
日本産のウイスキーでは、ピート要素が強いとされる余市。
それは同蒸留所の創業者の竹鶴政孝(マッサン)が、本場スコットランドのピート要素の強いウイスキーづくりにこだわったからとされています。
上述の銘柄ほどではありませんが、ピートをしっかり感じるウイスキーとなっています。
全くピートを使用していないウイスキー銘柄
せっかくですので全くピートを使用していない、つまりノンピート麦芽を使用したウイスキー銘柄もご紹介しましょう。
ノンピート系ウイスキーの中でも有名なのがグレンゴイン。
同蒸留所のウイスキーは全てノンピートであることで知られ、こちらの10年もピートを使用していないため、上述の銘柄とは全く異なる味わいです。
基本的にはライトでスムースで、飲みやすい味わいとなっています。
まとめ
ここまでピートが一体何なのか、さらにはなぜ使用するかなどピート全般についてお送りしてきました。
ピートに関する知見は深まったでしょうか?
最後にまとめると…
しかし現在では主に、ウイスキーに特有のスモーキーフレーバーを与えるために使用される。
ウイスキー初心者の方にとっては、このピート要素の強いウイスキーは中々強烈かもしれませんが、不思議と慣れてくるものです。(もちろん好みはありますが)
まずはぜひピーティなウイスキーを試して、ピートを感じてみてください。
もしかしたらファンになるかもしれません。
それではこの辺で。
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【参考文献】
ウイスキー完全バイブル・ナツメ社 監修・土屋守